投稿者:ハッカ飴 2001/06/09 (土) 05:17:08        [mirai]
「雪菜、頭の悪いおまえにもわかるように説明してやるとだな」

雪菜の頭は悪くないことは知っているが、
むかしからこういう事態に陥ると思考能力が著しく低下するのが彼女だった。
だからゆっくりと説明してやらなければならない。

【臨時政府発表、危険ですので絶対に外出しないでください!】

「この【臨時政府】つまり元の政府はすでにないってことだ、つまり政府が倒されたんだ、
 そしてこの画面、状況をまったく説明せず文字だけ表示するのは情報統制の常套手段だ」

そうだ。
口に出すと言うと納得できた。
これはどう考えてもただの放送事故じゃない。
そうだよ、クーデターだ。

もう日本各地で暴徒が蜂起して、それを警察と自衛隊が鎮圧して、
治安維持権を巡って今度は警察と自衛隊が争って、装備で勝る自衛隊が勝利して、
それからはもう自衛隊の各方面師団が争って群雄割拠の時代に突入するんだ。

そんなウェルカム トゥ ディス クレイジータイムに突入するんだ。
いいや、もう突入しているんだよ。

もう学校で勉強する時期じゃない。行動する時期だ。どうする俺。

とりあえず何をする? 何をしたらいい?

今やらないと後でとり返しのつかないことになることってなんだ?
今やらないと誰かに絶対に奪われてしまうものってなんだ?

「そうだ拉致だ、拉致にいくぞ」

そうだよ。拉致しなきゃいけないんだよ。
人間は拉致ってなんぼなんじゃ。
拉致れないやつなんてクズだよ。クズなんだよ。

「たくと兄ちゃん?」

俺はお気に入りのレザーコートを羽織るとすぐにソファーから立ち上がった。

「よし、雪菜早く着替えろ、おまえも行くんだよ」

「わ、私?」

「そうだよ俺が拉致ってくるから、おまえが車の運転するんだよ」

「中学生が免許なんか持ってるわけ…」

「だまれ! 免許がなくても車は動く」

雪菜は泣きそうな顔をしたが、妹の泣き顔など今の俺にはたいした障害ではない。
俺は中学校の制服に着替えた雪菜を連れて家を出た。

そして、これ以後、俺が自宅に戻ることはなかった。

参考:2001/06/09(土)05時06分47秒