2001/06/15 (金) 23:08:58 ◆ ▼ ◇ [mirai]ルパンが中年になった頃とっつぁんはもうこの世にいませんでした。とっつぁんは自分の命の終わりがすぐ傍まで来ているのを知ったとき、
こっそりルパンの前から姿を消しました。ルパンの前で弱って涙もろくなった自分を見せたくなかったのです。
とっつぁんはルパンの心の中ではずっとダメ警部として生きつづけたかったのです。
とっつぁんがいなくなったのに気づいたときルパンは悲しみはしませんでしたが、退屈になるなと思いました。
とっつぁんとのチェイスは最高にスリルのあるゲームでしたから。胸の奥が不思議にチクチクはするのですが、それが何なのか、
ルパンにはよくはわかりませんでした。とっつぁんの願い通り、ルパンの心の中でとっつぁんはいつまでもダメ警部でした。
そんなある日ルパンの前に一人の刑事が現れました。とっつぁんよりのろまで体も小さい刑事です。
ライバルのとっつぁんがいなくなって寂しかったルパンは、今度はこの刑事をコケにしようと考えました。
そこでルパンは、穴のあいた三角チーズが仕掛けられた黄金のねずみ取りを利用して、
その刑事に罠をかけることにしました。いつもとっつぁんにしていたように。
ルパンは物陰に隠れて、犯人を求めて刑事がターゲットの近くに来るのを待っていました。
そして思惑通り刑事がルパンを逮捕します。
ルパンはしめしめと思いました。いつものように、自分が手錠に掛かるふりをして、逆に刑事を手錠にかけてやるんだ。
うふふ。刑事が顔を真っ赤にして飛び上がる姿が頭に浮かび愉快です。
でも、その刑事はとっつぁんではありません。
刑事は警棒でルパンに襲いかかってきました。ルパンはいつもとっつぁんから逃げていたように逃げようとしましたが、
とっつぁんよりのろまなはずの刑事にすぐに追いつかれてしまい、拳銃でズドンと撃たれました。ルパンも撃ち返しましたが、
ケブラー繊維で出来た防弾チョッキを着ている刑事は平気です。
血まみれのルパンは薄れ行く意識の中で、本当は泥棒が警察と喧嘩して勝てるわけがないことと、いつもとっつぁんはルパンに「してやられた」ふりをして、
わざとルパンを捕まえないでいたことを、
そのとき始めて知ったのです。とっつぁんの大きな優しさと友情に気づいたのです。
そしてとっつぁんがいなくなった時の胸の奥のチクチクの正体にも気づきました。かけがえのない友を無くした悲しみでした。
ルパンの魂が体を抜けた時、空の上には優しく微笑みルパンを待っているとっつぁんがいました。
「あらま、とっつぁん。お~ひさしぶり~」
「ルパーン!今日こそは逮捕してやるぞ~」