2001/06/17 (日) 19:27:51        [mirai]
 寧々(ねね)は悲しくはなかった。

どうして自分が、こんな格子戸と板張りの狭い部屋に閉じ込められているのか、充分に心得ているからだ。

しかも今日は「初日」ということで、大好きな「兄」も側に付いていてくれることになっている。

ここ中国は雲南省の山奥―――。とある狭い盆地の小さな村に、寧々は家族と共に暮らしている。父と母、そして兄と弟の五人家族である。

およそ十人以上の大所帯が当たり前であるこの地方の農家にしては、実に小さな家庭ではある。が、近隣には親類縁者が実に多く、村に暮らしているすべての人が寧々の家族と同じ
「朴(ぼく)」の名字なのだ。 

「朴 寧々」 十三歳。

愛らしいパチリとした瞳に長い黒髪―――。透けるように白くて極め細かな素肌―――。既に十三歳にして、「あどけなさ」ゆえの「可憐さ」と、萌え始めた「乙女の息吹」を混在させ始め
ている彼女は、村でも評判の美少女であり、心優しく控えめな性格である。

そんな彼女に、村の男たちのほとんどが好意を寄せている。しかもそれは若者に限ったものではない。特に既婚男性たちの彼女を見る時の眼差しは、決まって「生々しい淫欲さ」に満ち
溢れているのだ。

しかし、当の寧々はそれにまったく気付いていない。彼らのそんな邪悪な眼差しに対して、いつも屈託のない朗らかな笑顔と、礼儀正しい挨拶で応えるだけだ。そこには確かに彼女の
「幼さ」を見ることも出来るが、それ以上に「ムラの掟」というものが、村に暮らす娘たちに、目上の者を敬い男性に臣従することを強制している事実がある。村娘たちに、村の男たちに対
する「好き嫌い」は決して許されないのだ。

自然豊かな村の暮らしの中、寧々の心はどこまでも純粋であった。村の暮らししか知らず、学校にすら行ったことのない少女にとって、この村の暮らしこそがすべてであり、家族こそがか
けがえのない宝物だったのである。

しかし、未だ電気の灯かりも電話もない前近代的な「閉ざされた農村」は、この十三歳の可憐な少女に、過酷な試練を宿命づけていた‥‥。