2000/11/23 (木) 00:13:15        [mirai]
 ある朝。渚は早く起きて繭のためにサンドウィッチを作った。 
 昼頃、授業を抜け出し、いつもの場所へ持っていこうとすると、そこに繭がいなかった。 

 「繭・・・? 繭・・・?」 

  か細い声を発(だ)して渚は繭を探す。 
 すこし奥のほうまで歩いて、見ると、いつもの「白い仲間」は赤く塗られていた。 

 「繭・・・?どうしたの?」 

 赤い繭は無造作にフェンスの前で横たわっていた。 

 「繭・・・?」 
 繭の腹からあふれだす赤い血に渚は触った。「グチュッ」という音が感覚として伝わる。 
 「繭? 繭!?」 
  渚は一心不乱に、裂かれた繭を揺り動かす。 
  「繭? 繭?どうしたの? どうして泣いてくれないの?なんで目を開けないの?」 
 渚の制服に血が跳ね返る。真っ白い手が赤く染まっていく。頬に血が飛び散る。 

 「繭・・・?」 
 渚は理解できた。そして待っていたのは空白の時間だけだった。 
 焦点の定まらない眼で渚は、よろよろと、そして一散にそこから走り出した。 

 気づけばかぼそい腕で石を拾っては窓ガラスに投げつけていた。 
 校舎から悲鳴が聞こえる。 
 「キャーッ!」 
 「なんだなんだ、どうしたんだ?」 
 渚は無我夢中で石を投げつづけた。パリーンとものの崩れる音が校内の静寂(しじま)を揺らし、生徒たちが騒ぎ出す。 
 「里井!何してるんだお前は!」 
 渚の方へ沢井が駆け寄ってくる。渚は逃げる。