2005/03/13 (日) 22:00:42 ◆ ▼ ◇ [mirai]氷上「メリークリスマス」
この寒い中、ずっとそこに立っていたのだ。
浩平「ばか、下りるぞ。ついてこい」
氷上「いや、いいんだよ、ここで」
白い肌が血色がかり、唇も変色していた。
浩平「おまえ、死人のようになってるじゃないか」
氷上「ずっと前から死人みたいなもんだよ、僕は」
浩平「ばか言ってないで、こいっ」
腕を引っ張る。その手も冷たい。
氷上「あはっ・・・少し幸せだよ、僕は」
浩平「どうして」
氷上「絆というものを実感している気がするから」
浩平「こんなものが絆か。ただそんな顔色をした奴
を放っておけないだけだ」
氷上「いや、わかるよ、僕には」
オレの手を指先で解いてゆく。
氷上「だって、キミはもう取り返しの付かない選
択をしたんだから」
再び自由となったところで、そう言う。
浩平「わからないな、何を言ってるんだか」
氷上「喋ったら、少し暖かくなってきた。もう大
丈夫だ」
嘘だ。未だ喋る言葉だって震えているじゃないか。
でも、見た目以上に強情な氷上を、今この場から
連れ出すことも不可能だと思えた。
それならとっとと話しを聞いてお終いにしたほう
がいい。
氷上「さて、最後の話しだね」
浩平「そうらしいな」
氷上「もう僕はキミに影響力を持ってしまっても
いいと考えた。その上で話すよ」
浩平「ああ」
氷上「キミはこれから違う世界へと向かおうとし
ているね」
オレは黙っていた。言葉を失っていた、というほ
うが正しいか。
氷上「どうしてそんなことがわかるのか、今から
教えるよ」
浩平「…・・・・・・」
氷上「それは、『誰にだって訪れる世界』だから
だよ」
氷上「だから僕にだってわかるんだよ、それが」
氷上「何もキミだけが、幻想の世界に生きている
んじゃない」
氷上「誰だってそうなんだよ」
氷上「すべてが現実なんだよ」
氷上「物語はフィクションじゃない。現実なんだ
よ」
氷上「わかるかい、言っていることが」
浩平「いや…」
氷上「じゃあ、現実との接点をひとつだけ提示し
ようか」
浩平「ああ・・・」
氷上「・・・家族に大病を患ったひとがいないかい」
浩平「・・・・・・・・・」
氷上「繋がったかい。現実と幻想が」
浩平「かもな・・・」
氷上「最後の話しはこれで終わりだよ」
氷上「そして、僕は多大な影響をキミに与えてし
まった」
氷上「だから、その責任はできる限りとりたい」
氷上「僕に残された時間は、キミのために、キミ
のことを思って過ごすよ」
浩平「・・・・・・・・・」
氷上「思いが届くといいけどね」
氷上「僕の求めた、最初で最後の絆だから」
浩平「・・・ああ。頼むよ」
氷上「じゃあ、僕は戻るとするよ。最後の時間を
過ごす場所に」
浩平「ああ」
氷上「さようなら」