春の風には百日咳《ひゃくにちぜき》の黴菌《ばいきん》が何十万、銭湯には、 目のつぶれる黴菌が何十万、床屋には禿頭《とくとう》病の黴菌が何十万、省線 の吊皮《つりかわ》には疥癬《かいせん》の虫がうようよ、または、おさしみ、 牛豚肉の生焼けには、さなだ虫の幼虫やら、ジストマやら、何やらの卵などが必 ずひそんでいて、また、はだしで歩くと足の裏からガラスの小さい破片がはいっ て、その破片が体内を駈けめぐり眼玉を突いて失明させる事もある