ヒトラーを異常人格者とか怪物と考えるとすれば、それは見当違いだ。 彼は典型的なごくありきたりの人間だった。彼は理想主義的なムードの中で第一次大戦に参加した。 戦後混沌とした社会的不満の渦巻く祖国に戻り、苦難を重ね、憤激の念をつのらせた。(中略) ユダヤ人の血とか資本家の陰謀とか奴隷的な諸民族とか、ヒトラーが使ったような気違いじみた表現は、 ヨーロッパ中どこへ行っても工場の食堂などでは耳にすることができたし、おそらく今でもそうだろう。 ヒトラーを錯乱させたのは、人びとがそれを真に受けて、そのために殺人を犯し、強制収容所を作り、 世界に向かって進撃までするというその事実だった。 そうなれば、ヒトラーならずとも誰だって同じことになっただろう。 レン・デイトン著 電撃戦(BLITZKRIEG From the Rise of Hitler to the Fall of Dunkirk)