2000/12/11 (月) 03:17:17        [mirai]
爆発、どこでもいい

またたくネオン 心に火


 ネオンが彩る不夜城・歌舞伎町。

 十二月四日夜。新宿区役所近くの露店では、小さなクリスマスツリーが売られ、年末気分を醸し出していた。

 林立する飲食店や風俗店の看板。その中をさまよっていた少年は、けん騒が少しだけ収まった路上で、ボストンバッグを開けた。

 鈍く光る細長い銃身。迷彩色のストラップ。少年は人目につかずに散弾銃を組み立てることに成功すると、バッグから球形の黒い塊を取り出した。

◆突き刺さるくぎ◆

 「爆発させるのは、どこでもいいんだ」

 区役所北側の路地に、その店はあった。

 「ビデオ・本 マック」。明滅するランプにふち取られた黄色い看板が光っている。

 午後八時十五分。少年は、アダルトビデオのポスターに囲まれた小豆色のドアの前に立った。ライターで手製爆弾の導火線に点火し、店内に投げ入れる。

 「ドーン」

 少年の背中で、低い爆発音がとどろいた。床の一部が吹き飛び、ゆらゆらと白煙が立ち上る。店内の壁には、爆弾に仕込まれたカッターナイフの歯やくぎが突き刺さった。

 けたたましいサイレンが鳴り響き、消防車や救急車が次々と到着する。「火事だ」「ガス爆発らしいぞ」。あたりは騒然となった。

 少年は、靖国通りのイチョウ並木を東へ歩いた。足元で黄色い落ち葉が風に吹かれた。

 呼び止める人はだれもいなかった。

 声を掛けるのは、飲食店や風俗店の呼び込みばかり。カラオケボックスの割引券を配っていた大学生(21)は、爆発音に気付いたが、少年の姿には記憶がない。

 交差点の角で「KOBAN」の看板が光っていた。

 四谷署御苑大通交番。

 「自首しにきた」

 「何でだ」

 警察官が少年に聞き返す。

 「さっきの歌舞伎町の爆発だ。おれがやった」

 少年の上着の肩口からは、散弾銃の銃口がはみ出ていた。

 「人があまりいないので、散弾銃を撃つのはやめた。今思えば撃っておけばよかった」