> > 僕たちは歩きつづけた。玄八じいさんは自転車を押したままなので > 少し遅れているようだった。ちよは疲れているのかさっきから黙り続けている。 > 聞こえるのは田奈川の水音だけである。さらに20分ほど歩いた後 > 突然ちよが叫んだ「お兄ちゃん、あれ」 > ちよの指がさしている方へ目をやる、何も見えない。 > 漆黒とまでは言えないまでも、周りに民家などが無いこのいったいは相当に暗い。 > その暗闇の中に一筋の光が、突然横切った。 > 「見えた、蛍だ」 > 僕は後ろを振り返り、玄八じいさんに叫んだ。 「まだまだ、もっと先だよ」 玄八じいさんがそう言うと、俄然元気になったちよが不平を言った。 「え~まだ歩くの~、ちよもう疲れた」 父が家を出て行ってから、ちよは自分のことを私と言うようになっていた。 「お前、いま自分のことをちよって言っただろう」 ちよは返事をせずに歩きつづけている。不平を言ったが、蛍を見る前に比べ 歩調が軽くなっているようだ。 参考:2001/12/12(水)23時41分09秒