2002/04/27 (土) 03:51:25 ◆ ▼ ◇ [mirai]「ほえ? コタローくんとしかしたくないっスよ?」
あまりにも素直に紡がれた言葉にまた、返す言葉を失う。
別に彼女が誰に対してもそういうことをすると思っていたわけではない。ただ、自分が特別だと
思えなかっただけの話だ。
自分だけに関わってくることも、自分でないと駄目だということも、明確な理由が思い至らない
から不可解で、だからそういうわけではないのだろうと無意識のうちに自分を納得させていたよう
な気もする。
けれどもう答えの一つは聞いてしまった。いや、もう一つの答えも、おそらくは出ているのだ。
信じたいとは思わなかったけれど。
「コタローくんは……」
だから、問われかけた言葉を聞かないように唇を塞ぐ。
長くも短くもない、意識の流れを止める口付け。
結局勝てないのだということを思い知って、それならただ流されるよりも認めてしまった方がい
いから…
全面降伏と同じ、今まで気付かなかった分も否定し続けた分も込めたキスだった。
唇が離れてからもしばらくの間きょとんとしていた美紗が、少し照れたように頬を染めて嬉しそ
うな微笑みを浮かべる。
そんな彼女の態度にようやく照れを思い出したように、湖太郎は少しだけ視線を逸らして呟い
た。
「…なんですか?」
たかがキス程度で彼女がそんなに喜ぶことが理解できずに思わず漏れた言葉だ。初めてならとも
かく、一週間前にはさんざん繰り返したことだというのに。
「だってだってー、コタローくんからキスしてくれたの初めてっスよ~♪」
てひひひと笑って答える彼女の言葉に、湖太郎はそうだっただろうかと記憶の糸を辿る。
一週間前のあの日、どさくさまぎれに自分からもしたような気がするが、確かにはっきりとそう
だと言いきれることは思い出せない。
けれどそんなことは多分どちらでもいいのだろう。彼女がそう信じて、そして喜んでるならそれ
でいいと感じる。
そんな考えを巡らしているうちに、また彼女の腕が絡み付く。
一瞬条件反射で抵抗を返そうとした腕を止めて、湖太郎はその温もりに身を任せた。答えを出し
てしまった今となっては抵抗する理由も見付からなかったけれど、一つだけ思い至ることがあって
それに抗ってみる。
抱きしめられた身体をくるりと反転させて先程とは逆に組み敷く形に移行する。逃れようとすれ
ば簡単にはいかないのに、こういうときだけ上手くいくのも因果なものだと思わず苦笑いがこぼれ
るが、もし一瞬でも滞っていたなら躊躇ったに違いないから湖太郎は無意識のうちにその思考を振
り払った。
有耶無耶のうちに流されて、後悔したあの時とは違う。後悔した分も取り戻すように、言い逃れ
なんてできない状況を自分から作り出して、
明確な答えを出せないまま繰り返すのは、愚かで卑怯だとはわかっていたけれど…
誘われるように、けれど自分の意志でそれを決意する。
理屈よりも先に飛来する想いに身を任せて、両腕を組み敷いたまま、抵抗の素振りも見せない彼
女の唇を再び塞ぐ。
今度は彼女もそれに反応して、唇の隙間から舌が潜り込む。なんの躊躇いもなくそれに舌を返す
と、口内からぴちゃぴちゃと唾液の交わる音が脳に直接響き渡った。
思考を溶かし、脳髄まで痺れさせる蜜の味を僅かに甘いと感じるのは錯覚でしかなかったけれ
ど、そのときの自分は確かにそう感じていた。逃れられない、麻薬のようだとさえ感じる。
「……ん」
「んぁ……」