2002/05/21 (火) 16:16:14        [mirai]
『毒マルチ!』



	――三太夫!?――



「やい、ババア!」



 アナウンスの声。
 オレのつぶやき。
 そして最後の声、あの声はまぎれもなく――。



 スポットライトの下、メイン通路の真ん中に、
  アラシ隊員のコスプレをした量産マルチがすたたたーと出て来た。

「まぁったく、よくもまあこんなしわくちゃのクソババアばっかり集まったですー!」

 開口一番、言うことが、それ。

『新型マルチの新しい機能、『毒舌』!
 いままでどこのメイドロボもなしえなかった最後のフロンティアを、
  来栖川の技術がついに可能にしました!』

 ――技術的な問題なのか?

「はわ、は、はわわ……人間の人にそんなこと言ったら……」

 オレのとなりのマルチは顔面蒼白だ。

「たたた大変ですー! 返品ですぅ廃棄処分ですぅ
  屑屋のプレス機でぺっしゃんこですー!」

 そんな前近代的な廃棄処分があるか。
 でも、たしかにそんなものが売れるとはとうてい……。
 
 いや?
 オレは目を疑った。
 花道の周りを固めるおばちゃんたち、きゃーきゃー。

 ……よくみると、なんかウケてる! みな喜んでるぞ!

「まったく、どいつもこいつもしわくちゃのババアばっかりですー!」

 またも、どっと笑いが起こる。

「ババア、長生きするですー?」

 しかも辛口トークの中にもほの見えるやさしさ?

『もちろんしゃべりだけでなく、通常のメイドロボとしての業務内容も、
  毒マルチならではの愛嬌とペーソスを含んだひとひねりある内容となります。
 たとえば、風邪を引いたときに毒マルチにどんな風に看病されるか?
 再現ビデオでごらん下さい』

 すっと照明が落ちて、正面スクリーンに映像が映し出される。



	「げほげほ……」

	 老女が風邪を引いて伏せっている。

	「まったく、メイドロボがいるって言うのに看病の一つもしやしないんだから……」

	 ぶつくさ言って寝入る。
	 ややあって、ふと目を覚ますと、

	「……?」

	 ととと……と、障子の向こうを影が駆けていったような気配。
	 ふと、いい香りが鼻をくすぐる。
	 枕もとのお盆の上に書置きがある。

	『ババア、
	 いつまでも寝てられるとうっとおしくてかなわないから、
	 はやく良くなるですー』

	 そんな置手紙とともに、枕もとには梅干のちょんと載ったおかゆが湯気を立て
	ている。
	 枕もとの座布団にはさっきまで誰か座ってたかのようなへこみ。
	 身を起こすと、額からぽろりと濡れ手ぬぐいが落ちる。

	「マルチちゃん、口ではあんなこと言って、ずっと見ててくれたんだねぇ……」



『と、このようにおもわずホロリとさせられるエピソードも満載で、
  いま、来栖川電工が全国のシルバー世代にお届け! 新型メイドロボ、毒マルチ三太夫!』

 ……えーと。