2002/05/21 (火) 16:19:48        [mirai]
「秋子さん!」
 ついに覚悟をきめた。
 聞くとしたら、名雪が部活動で学校に残っているこの時間しかない!
「単刀直入に聞きます! 秋子さんの職業はなんですか?」

 これだ!
 この一言を言うために俺は夜も眠れず授業中に寝て名雪と睡眠デュオを臨時結成、さす
がに見かねた先生に廊下につまみ出されて気づいたころにはもう放課後、という我が校始
まって以来のアグレッシヴさを誇るファイティングスリーパーというありがたくない称号
を頂戴したのだ!
「この屈辱……くっ、これは水瀬家の呪いだ! どうしてくれる名雪」
「でも、なんだかかっこいいよね」
 かっこよくあるか。

「祐一さん、なんだか顔色が悪いですよ」
「睡眠不足だからでしょう」
「良かったらお茶、飲んでください。ハーブティーだから落ち着きますよ」
 カップを手にとってぐぐっと一気。もう有無を言わせぬいきおいだ。
「あらあら……」
「さあ、教えてください秋子さん! さあ!」
 俺の気迫に押されたのか、少したじろぐ秋子さん。
 しかしすぐさま落ち着きを取り戻し、静かに目を伏せて、そっと。
「了承(1秒)」
「了承はいいんです! 職業を教えてください!」
「だから、『了承』ですよ」
「……えっと」

 嫌な予感がしてきた。

「了承するのがお仕事です。分かりましたか、祐一さん」
「そ、それじゃ答えになってないじゃないですか。もっと具体的に言ってくれないと」
「そうですねえ……たとえば、内閣総理大臣の奏上を受けて、国会で決まった新しい法律
を『了承』したり、衆参両議院の開会を『了承』したり、憲法改正のときに1ページ目に
署名して『了承』したりします。
「でもそれって……天」
「表向きはあの人がやってることになってますけど、もともと女性の仕事なんですよ」
 俺の言葉をさえぎって、秋子さん。
 そういえば邪馬台国の王は卑弥呼だったな……
 よしわかった。もういい。もう二度とこの件に付いては触れるまい。
「そ、そうですかー。よく分かりました秋子さん。あ、安心しといてください。名雪には
秘密にしときますんで! それじゃあ」
 くい。
 俺の肘を、秋子さんがそっと引く。
「祐一さん。あなたは少し知りすぎたようですね。7年前のように」
 7年前?
 あのときにも、俺は秋子さんの職業を知ろうとしたのか?
 まさか……俺の記憶は……?
 ぐらり、と世界が揺らぐ。頭の奥がしびれたようになって、意識が朦朧としはじめた。
 これは、さっきのお茶か……。