2002/05/23 (木) 06:22:02 ◆ ▼ ◇ [mirai]やいと屋「はははっ、笑わせやがって。何が侍の一分だ。
仕業人が金にならねえ殺し合いをするとでも思ってるのかい?芋侍め。」
主水「俺は受けるぜ。」
やいと屋「なんだと?」
主水「俺にも剣之介とお歌を殺された恨みがある。それを果たすつもりだ。」
やいと屋「八丁堀…おめえ本気でそんなこと言ってるのかい?」
主水は肯いた。
やいと屋「へえ、不思議だねえ。全く侍ってえのはおかしな連中だ。
俺にはとても理解できねえや。」
やいと屋は酒を飲んでから言った。
やいと屋「なあ、主水さん。俺はそんなごたごたに巻き込まれるのはごめんだぜ。
俺は明日にでも上方に行く。江戸もそろそろやばくなったし、
剣之介の言い草じゃねえが俺達は少しやりすぎたようだ。
まぁ当分、上方へ行って、やいと屋修行のやり直しよ。
後はおめえさんに任したぜ。」
主水「足抜けか。」
やいと屋「そういうわけだ。」
主水「そいつは掟に外れちゃいねえか。」
やいと屋「掟…?じゃあ、おめえの方はどうなんでい、
侍なら掟外れの果し合いも許されるってえのかい?」
しばらくお囃子だけが聞こえた。
主水「お互い様か……。」
やいと屋「……そうらしいなあ。」
主水は黙って立ち上がり、あの御神籤を渡した。
それを見たやいと屋の顔色が変わった。
やいと屋は御神籤をまたくしゃくしゃに丸めた。
翌朝、小十郎が指定した場所に主水がやってきた。
傍で捨三とやいと屋が見ていた。
小十郎「良く来てくれた、礼を言うぞ。奥州柴山藩土屋小十郎。」
小十郎は刀を抜いた。
主水も刀を抜いた。
主水「中村主水だ。」
主水は羽織を脱いだ。
そして二人は果し合いを開始した。二人とも死を覚悟していた。
しかし、剣の腕は主水の方が上だった。
主水の胴が小十郎に決まった。
小十郎「こ、これで…これでいい……。」
それが小十郎の最期の言葉だった。
この結果を主水はどう思ったのだろうか。
やいと屋「……恐ろしい男だ。」
主水はやいと屋にも捨三にも何も言わず、羽織を拾い、
朝靄の中へと去って行くのだった。