2002/05/23 (木) 06:22:02        [mirai]
やいと屋「はははっ、笑わせやがって。何が侍の一分だ。
     仕業人が金にならねえ殺し合いをするとでも思ってるのかい?芋侍め。」
主水「俺は受けるぜ。」
やいと屋「なんだと?」
主水「俺にも剣之介とお歌を殺された恨みがある。それを果たすつもりだ。」 
やいと屋「八丁堀…おめえ本気でそんなこと言ってるのかい?」

主水は肯いた。

やいと屋「へえ、不思議だねえ。全く侍ってえのはおかしな連中だ。
     俺にはとても理解できねえや。」

やいと屋は酒を飲んでから言った。

やいと屋「なあ、主水さん。俺はそんなごたごたに巻き込まれるのはごめんだぜ。
     俺は明日にでも上方に行く。江戸もそろそろやばくなったし、
     剣之介の言い草じゃねえが俺達は少しやりすぎたようだ。
     まぁ当分、上方へ行って、やいと屋修行のやり直しよ。
     後はおめえさんに任したぜ。」
主水「足抜けか。」
やいと屋「そういうわけだ。」
主水「そいつは掟に外れちゃいねえか。」
やいと屋「掟…?じゃあ、おめえの方はどうなんでい、
     侍なら掟外れの果し合いも許されるってえのかい?」

しばらくお囃子だけが聞こえた。

主水「お互い様か……。」
やいと屋「……そうらしいなあ。」

主水は黙って立ち上がり、あの御神籤を渡した。
それを見たやいと屋の顔色が変わった。
やいと屋は御神籤をまたくしゃくしゃに丸めた。

翌朝、小十郎が指定した場所に主水がやってきた。
傍で捨三とやいと屋が見ていた。

小十郎「良く来てくれた、礼を言うぞ。奥州柴山藩土屋小十郎。」

小十郎は刀を抜いた。
主水も刀を抜いた。

主水「中村主水だ。」

主水は羽織を脱いだ。
そして二人は果し合いを開始した。二人とも死を覚悟していた。
しかし、剣の腕は主水の方が上だった。
主水の胴が小十郎に決まった。

小十郎「こ、これで…これでいい……。」

それが小十郎の最期の言葉だった。
この結果を主水はどう思ったのだろうか。 

やいと屋「……恐ろしい男だ。」

主水はやいと屋にも捨三にも何も言わず、羽織を拾い、
朝靄の中へと去って行くのだった。