2002/05/23 (木) 06:39:21        [mirai]
「必殺仕置人」にて初登場した同心、中村主水。
彼は奉行所では、いるのかいないのか分からないので昼行灯と呼ばれているような無気力男だ。
ところが、彼は元々は同心稼業について非常に意欲を持っていたようだ。 
彼はわずかなつてを頼って中村家に養子になりに来たという。
これは、彼がどうしても同心になりたかったからだと考えられる。
すなわち、彼は中村家に来たかったのではなく中村家の持つ同心株に心引かれていたのだということだ。
わざわざ婿養子になってまで同心となるとは、その意気込みは半端ではない。
おそらく当時は、市井にはびこる悪を裁くこの稼業にあこがれ、正義感に燃えていたに違いないのだ。 

しかし実際に同心になってみるとどうだろう。奉行所の中も腐敗しきっており、
金さえ積めば黒が白にでもなるという。
これでは平同心の自分がいくら正義感に燃えていても、何の役にもたたないではないか。
彼は希望に燃えていただけに落胆も激しく、全くやる気を失ってしまう。
自らもその色に染まり要領よく立ち回って出世しようというつもりにはなれず、
となれば袖の下を取るのが楽しみである程度のケチな同心として生きるようになってしまうのも無理なきことかな。 

彼は自分でも要領が悪いと言っていたが、実際は要領よく立ち回れないのではない。
彼は裏稼業において見事な頭脳明晰ぶりを発揮していたではないか。
単に、奉行所の腐敗した連中の同類になりたくはなかったというだけのことだろう。
かくして、昼行灯の中村主水が誕生する。 

彼は自分が佐渡金山にいた頃を懐かしがっていた。
その頃は使役される罪人とそれを監督する役人という単純明快な善悪構造があったからだ。
正義が正義として通らない世の中に彼がいかに不満を持っていたかが分かる。
そんな彼に佐渡の頃からの悪友の鉄(鉄や錠は主水に監督されて金を掘る罪人だった)が持ってきた話は、
彼がわずかに信じていたものを完全に裏切るものだった。
奉行が自らの出世のために何の罪もない男を死罪にしたことを知り、
もはや正義などどこにもないと見定める。
そして鉄たちと共に彼が選んだ道は「殺し」だった。