2002/05/23 (木) 06:40:15 ◆ ▼ ◇ [mirai]同心としての自分の力では巨大な悪に対して何もできない。
だが、一度その足かせを取ってしまえばどうだろう。
社会の仕組みにとらわれず、お上が裁こうとしない、裁けない悪を自らの手で仕置するのである。
主水にとってこんな快感は初めてのものだった。
何のもどかしさもなく、自らの怒りをそのままぶつけることができるのだ。
彼はようやく自分の新しい希望を見出す。それは人殺しという歪んだ手段であったけれども、自分なりの正義を貫き通す手段を得たのである。
それが歪んでいることは充分に承知している。
本当は正義ではないことも知っている。
だから彼は自らを磔にされてもしようがないくらいのワルだと言っている。
しかし主水にとって、これはかつて正義を夢見た男の新たなる生きがいだった。
金をもらって悪党を殺す、この薄汚れた稼業に彼は没頭した。
後のシリーズでは探索の手が厳しくなるからと言って遠慮するような大物が相手でも平気で仕置にかける。
もう表の人生を半分投げ出しているような感じだ。
この時期の主水の、なんと幸せそうなことか。
しかしそんな幸せが一旦幕を閉じる日がやってくる。
主水以外の仲間の正体がばれ、皆が江戸を去らざるをえなくなったのだ。
主水にとっては、自分の生きがいを失い元の昼行灯に戻ることは耐えられないことだ。
だから彼は鉄たちと共に旅立とうとする。表の人生を全て捨てて。
だが鉄はそれを制止し、仲間は散り散りになる。
残された主水は、元のさびしい生活に戻らざるをえなかった。