2002/06/20 (木) 05:18:29        [mirai]
超長い注:F2ウエムラスペシャルは合計3台作られた。現在、1台は植村の故郷、神
戸の「植村直己冒険館」に、1台は東京の「植村冒険館」に、そして1台は植村が世
界初のマッキンリー冬季単独登頂の際に携行。登頂には成功したものの下山中に遭
難し、帰らぬ人となったのは周知の通り。アタックキャンプで装備の大半が発見さ
れたが、遺体とカメラはまだ見つかっていない。

犬ぞりが走る雪原は道路があるわけではないので(映画「植村直己物語」参照)走
行時の衝撃がすさまじく(植村曰く「階段から転げ落ちるような」)、以前植村が
使っていたカメラ(オリンパス)は毎日十数時間もの振動と衝撃に耐えきれず、マ
ウントが破損してレンズを装着できなくなってしまった。依頼を受けた日本光学
は、F2を実際に階段から落として、どこがどう壊れるのかを徹底的に調べたとい
う。まさにクラフトマンスピリットである。F2ウエムラスペシャルというのは通り
名などではなく正式名称。この「プロ機の中のプロ機」は、

●チタン製の外装●-50度に耐えるオイル●超低温でも速度が安定するシャッター●
各バネの強化●フィルムが凍っても切れないように巻上げを順回転にし、平坦性を
保つガイドを追加●フィルムの空回りがわかりやすい赤いクランク●凍傷で皮膚が
剥がれないように表面を縮緬状に●フィルムカウンターの31以降を赤字に●凍傷対
策のためストラップの金具を外して糸で固定
などがノーマルのF2と違う。日本光学はチタン製のカメラを多数作っているが、き
っかけになったのは、このF2ウエムラスペシャル。このモデルから極地仕様を外し
たものが報道向けの「F2 Titan」である。南極用に作られたF3ウエムラスペシャル
も、基本的にはF2と同じ。外装がチタン色なのにファインダーのロゴプレートだけ
黒いのが特徴。ボディ背面とモータードライブには「N.UEMUARA」の刻印が入って
いた。

植村直己は世界で初めて五大陸最高峰(エベレスト、アコンカグア、マッキンリ
ー、モンブラン、キリマンジャロ)を征服した登山家。のちに冒険家に転じ、北極
圏12000キロ犬ぞり旅行、グリーンランド縦断(世界初)、北極点到達。南極最高峰
のビンソンマッシーフ登頂と南極点到達を目指したが、フォークランド紛争で断
念。マッキンリーは冬の登山を禁止していたが、あのウエムラなら、ということで
特別に許可が下りたという。アタックキャンプが見つかった地域は「ウエムラ・ベ
ースン」と名付けられた。