2002/07/07 (日) 05:13:15 ◆ ▼ ◇ [mirai]ガツーン! 突然の轟音に選手の誰もが、振り向いた。鬼のような形相で通り
過ぎる星野監督。その後方には鉄製のゴミ箱が…。側面は、大きく歪んでいる。
ナインが“音源”を理解した瞬間、緊張感が走った。
アホらしくなる。少し、追いかけたと思えば、1イニングで、ああなってしまう」
試合終了直後。ベンチ裏のゴミ箱を右足で蹴り上げた指揮官は、そのまま選手
サロンに姿を消した。葉巻に火をつけ、ミネラルウオーターを飲み、気持ちを
静めた。その間、約5分。落ち着いたはずだったが、こめかみに浮き出た血管
は消せなかった。
阪神にやってきて半年。ここまで、一度もなかったことが不思議だったのか
もしれない。闘将が初めて見せた姿だった。
許せない屈辱だった。2点ビハインドの八回。福原が炎上した。清水にダメ
押しの8号ソロを打たれ、気持ちが切れた。あとは、もう投げるだけ。4番手
橋本も痛打を浴びた。
この回、打者14人の猛攻を受け、被安打7、3四死球で8失点。終わってみ
れば、2-12。「力の差があるんでしょう。点数くらいにな。オレが今まで錯
覚しとったかも知れん」長くて辛い時間。指揮官は“孤独”を感じていた。
いたたまれなくなった時、星野監督はあえて、自分の体を痛めつける。中日時
代、ベンチのイスを蹴り上げ、右足親指の爪がはがれた。横浜スタジアムでは
バットケースを素手で殴った。腫れ上がった右手の甲を手袋で隠したが、それ
から2週間、箸を持てなかった。
「アホなことをしたと思う。でもな。今でも、思い出すんや。右足の親指を見るとな」
心の傷だけでは、立ち直れない。体に残した“ツメ跡”に、悔しさを封じ込め
る。恐らく、この日も右足に深い傷を負ったはず。それでも、足を引きずらない。
何事もなかったかのように歩く。そして鬼になる。 多くを語らず、会見を打ち
切った星野監督は、カメラのフラッシュに「エエ加減にせい」。帰りのバスに乗
り込むと、前の背もたれを蹴り、「早く出せ!」と吠えた。