> 2002/08/16 (金) 18:11:05 ◆ ▼ ◇ [mirai]> 「長瀬ちゃん・・・ウニ、好き?」
> どこまでも続く暗黒の世界。
> 自分の足の先も見えないほど暗いのに、
> 「ウニ、好き?」
> 目の前で微笑む瑠璃子さんだけは、闇を切り抜いたように鮮明だ。
> ああ・・・夢なんだなぁ、と思う。
> 「ウニ・・・」
> 明晰夢・・・夢を夢と知覚するなんて、とっても珍しい事だ・・・
> すごいや・・・
> 「ウニ、好き?」
> 「え?」
> 「長瀬ちゃんは、ウニ、好き?」
> 瑠璃子さんは、なにやら儚げな微笑みを浮かべた。
> 幽かな存在感が、どうしようもなくもどかしい。
> 「瑠璃子さん・・・あの、せっかく夢で逢えたんだし・・・」
> 「ウニ」
> 「・・・」
> 「・・・」
> 「う、うん、まあ、キライじゃないケド・・・」
> 「そう」
> にこっ・・・
> 優しげな微笑みを浮かべた瑠璃子さんは、後ろ手に持っていた、
> 「ウニ」
> を、僕の眼前に突きつけた。
> 「紫ウニだよ・・・」
> 「うっ・・・」
> 濃い赤紫色の刺が、ゆっくりと、しかし確実にうごめいている。
> 少し潮の香りがして、なんだか、物凄く嫌な気持ちになった。
> 「る、瑠璃子さん・・・ウニはわかったからさ、もっと他の事を・・・」
> 「おいしいよ」
> 「し、知ってるけどさ・・・」
> 「食え」
> 「へ?」
> およそ瑠璃子さんらしくない言葉に、僕は間の抜けた声を上げた。
> 瑠璃子さんは、僕にかまわず続ける。
> 「ウニ食え、ホレ、ウニ食え」
> 目の前に、紫色の刺が迫る。
> 「ちょっ・・・うわっ」
> 瑠璃子さんは、微笑んだままで、ぐいぐいとウニを押しつけてきた。
> 「いたっ! いたたたたっ! 瑠璃子さん、ウニが痛い!」
> 「ウニ食え」
> 「いててててててっ! 刺さってる! 刺さってますっ!」
> 「ウニウニ」
> 「のわたたたたっ! めちゃくちゃ深いっ! いたたたたっ!」
> 瑠璃子さんの持ったウニは、容赦なくほっぺたに突き刺さる。
> 僕は悲鳴を上げて―――
> ガバッ!!
> 気づけば、僕は布団を跳ね除けていた。
> 四角い窓には朝の光があふれていて、すずめのさえずる音が聞こえる。
> あぁ・・・夢から覚めたのか・・・
> ちぇっ・・・せっかく瑠璃子さんに逢えたのに、ひどい夢だった。
>
> その日の昼休み、僕は校庭で瑠璃子さんを見かけた。
> 「こんにちわ、瑠璃子さん」
> 「・・・こんにちわ、長瀬ちゃん」
> ゆるゆると微笑む瑠璃子さんは、夢の中の姿とそっくりだ。
> いや、瑠璃子さんの住む世界は、夢と現実の区別がないのかもしれないけれど・・・
> 「なにやってるの?」
> 「チョウチョの幼虫をつついて、臭い汁を出してるんだよ」
> にこっ・・・
> 「そ、そう・・・」
> 妙な間が開いた。
> 僕は、会話の間に開く、『間』ってやつが苦手だ・・・
> 嫌われてるんじゃないか・・・そんな邪推が、僕の頭を支配する。
> 僕は、無理に話題を振った。
> 「あ、あのさ瑠璃子さん」
> 「・・・」
> 「ウ、ウニ―――」
> 「・・・」
> 「ウニは―――」
> あっ!!!
> 「・・・」
> 「な、なんでもないよ・・・」
> 「そう・・・」
> 瑠璃子さんの左手に、馬糞ウニがのっていたので、僕は質問を取りやめた。
> 世の中には、知らなくてもいい事って、あるよね・・・
> 「瑠璃子さん、今日は、電波集めないんだ・・・」
> 「・・・忘れてた」
> そう言って、瑠璃子さんはクスクス笑った。
> 僕も、つられるようにして笑った。
> 瑠璃子さんは、笑いながら、僕に囁く。
> 「ね、長瀬ちゃん・・・今夜も逢おうね」
> 僕の笑顔が凍った。
ZEN BUN IN YOU UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
参考:2002/08/16(金)18時06分55秒