2002/11/17 (日) 01:14:33 ◆ ▼ ◇ [mirai]あるところに、街で一番の頑固者と言われた若者と、最も強情と言われた若い女がおりました
が、驚いたことに、二人は恋に落ちて結婚しました。結婚式のあと、新居で盛大な祝宴が開かれ一日中続きました。
やがて友達も親戚もみな満腹になり、一人また一人と家路につきました。新郎新婦はヘトヘトに疲れて、
靴を脱いでくつろごうとしていました。そのとき、最後の客がドアをきちんと閉めていないことに夫が気ずきました。
「なあ、おまえ」と夫が言いました。「ちょっとドアを閉めてきてくれないかな。すきま風が入ってくるから」
「どうして私が閉めなきゃいけないのよ?」とあくびをしながら、妻が答えました。「一日中立ちっぱなしで、やっと座ったばかりよ。あなたが閉めなさいよ」
「そらきた!」と、夫は切り返しました。「結婚指輪をはめたとたん、怠け者の役立たずになるんだよな!」
「よくもそんなことが言えるわね!」と妻が叫びました。「私たち、結婚してからまだ一日もたっていないのに、
もうあなたは私をののしり、あごで使おうとするのね!あなたがこんな夫
になるなんて、思ってもみなかったわ!」
「がまがみとうるさいなあ。おまえの文句を、おれは永遠に聞かなきゃいけないのか?」
夫がぼやくと、妻がやり返しました。
「そして、私はあなたの小言と愚痴をいつも聞かなきゃいけないわけ?」
二人は、たっぷり五分間、お互いにらみ合って座っていました。すると、ある考えが妻の頭に浮かびました。
「ねえ、あなた。私たちはどちらもドアを閉めに行きたくないのだし、どちらも相手の声を聞くのにうんざりしてるのよね。」だから、ここで勝負をしましょう。
先に口を開いた方が、ドアを閉めに行くのよ」
「そいつは今日一番のいい考えだ」と夫は請けあいました。「さっそくはじめよう」
こうして二人はゆったりと椅子に腰かけ、一言もしゃべらずに顔をつき合わせました。
二時間ほどしていると、荷馬車に乗った二人組みの泥棒が通りがかり、ドアが開いているのに気づきました。
泥棒はまったくだれもいない様子の家の中に忍び込み、手に触れるものすべてを盗み出しました。
テーブルや椅子を運び出し、絵を壁からはずし、じゅうたんまで巻き取りました。
それでも新婚夫婦はひとことも口を利かす、動こうとしません。
”信じられない”と夫は思いました。”やつらはうちの物を全部持っていこうとしているのに、
妻は声を立てようともしないぞ”
妻は妻で、考えました。
”どうして夫は助けを呼ばないの?ただ座って、泥棒に好きなように盗ませておくつもりなのかしら?”
泥棒たちは最後に、押し黙ってじっとしている夫婦に気づき、二人をろう人形とまちがえて、
宝石や時計、財布をはぎ取りました。けれども夫も妻も声を立てようとはしません。
泥棒は盗んだ物をかかえると、大急ぎで去っていきました。それでも、新婚夫婦は一晩中座ったままでした。
夜明けごろ、一人の警官が通りがかり、ドアが開いているのを見て、家の中をのぞ
き込み、
変わったことがないかとたずねました。しかし、当然ながら二人は押し黙ったままで、返事は帰ってきません。
「おい、こっちを見ろ!」警官は叫びました。「警察だ!おまえたちは何者だ?ここはお前たちの家か?
家具はどうしたんだ?」けれども、なお返事はありません。警官は手をあ
げ、夫の耳を殴りつけました。
「やめて!」と妻は飛び上がって叫びました。
「これは私の夫よ。この人に手を触れようなものなら、承知しないわよ!」
「勝った!」夫は手をたたきながら叫びました。「さあ、おまえが行ってドアを閉めて来るんだ」