2002/11/23 (土) 02:07:23        [mirai]
 「計画的なご利用」なんて言葉とまったく無縁だった俺は、後先考えずパーツ
買いまくり、さらにアルコール浴びまくり。貯金残高四桁で月末は人から缶詰を
恵んでもらう毎日。最低だったよ。

 だけど、そんなただれた生活を見かねた職場のボスが、ある時教えてくれたん
だ。「デュアル」っていう世界があるって。お前もこれで真っ当に生きろって。
でも、すさみきってた俺は、ボスの親心が理解できなかった。

 俺は言ったよ。
 CPU二つ乗っけてどうすんだって。
 そこに何の意味があるんだって。
 それで金でも入ってくんのかって。

 ボスの親心を何一つ理解しないまま、俺は夜の新小岩に消えたよ。
 ...でも、あの時の俺は、実際どこかで救いを求めていたのかもしれない。
駅前の吉野家で、酔っぱらいの親父と無気力な大学生に挟まれて並食ってた時、
ふと思ったんだ。

 俺はこのまま終わっちまうのかな、って。
 何のために東京に出てきたのかな、って。
 田舎のばあちゃん、元気なのかな、って。

 そしたら急に視界が曇ってきてさ。
 ああ、牛丼の湯気かなと思ってたら、違ってた。俺の涙だったよ。それが、初
めて。東京に来て泣いたのは。
 だからかもしれない。
 次の日の朝、何かにすがるようにパーツ買いまくって、気が付いたら一台組ん
じまってた。
 ...実際、驚いたよ。といっても、処理能力じゃない。ケースに収まったそ
の姿になんだ。

「美しい...」

 その言葉以外、思いつかない。
 マザーにCPUクーラーが二つ載っているという衝撃。
 その現像が、視線をそらすことを拒否していた。
 いや、自らの脳が、この未知の快楽を処理しきれずに、停止した覚醒状態にあ
ったといってもいい。
 ...それから何時間経ったんだろうな。気がついたら、もう太陽がさよなら
してる最中だった。
 窓を開けていたせいか、いつのまにか近所の野良犬や野良猫どもが入ってきて、
こちらを不思議そうに見つめている。「いいぜ、お前達がこの誓いの証人だ。」
 この体内を流れるものと同じ紅色の光を浴びながら、俺はそいつらの頭に手を
置き、つぶやいた。

「生きよう」

 さて、ここから先は過去のニュース記事でも読むといい。俺が話すよりよっぽ
ど詳しく書いてある。それに、もう時間のようだ。君も、このリムジンを降りて
元の生活に戻ったとしても、忘れるなよ、この熱き想いを。
 そして、もしこちら側の世界に来たいと思うのなら、俺はいつでも待っている。
いつでも待っているぞ。
 じゃあ、さよならだ。