勇敢なる水兵 一、 煙も見えず雲もなく 風も起こらず波立たず 鏡のごとき黄海は 曇り初(そ)めたり時の間に 二、 空に知られぬいかずちか 波にきらめくいなずまか 煙は空を立(た)ちこめて 天津(あまつ)日影も色くらし 三、 戦い今かたけなわに 勉め尽せる丈夫(ますらお)の 尊き血もて甲板は から紅(くれない)に飾られつ 四、 弾丸(たま)の破片(くだけ)の飛び散りて 数多(あまた)の傷を身に負えど その玉の緒を勇気もて つなぎ止めたる水兵は 五、 間近く立てる副長を 痛む眼(まなこ)に見とめけん 彼は叫びぬ声高(こえだか)に 「まだ沈まずや定遠は」 六、 副長の眼はうるおえり されど声は勇ましく 「心安かれ定遠は 戦い難くなしはてき」 七、 聞きえし彼は嬉しげに 最後の微笑(えみ)をもらしつつ 「いかで仇を討ちてよ」と いうほどもなく息絶えぬ 八、 「まだ沈まずや定遠は」 此の言(こと)の葉(は)は短きも 皇国(みくに)を思う国民(くにたみ)の 胸にぞ長くしるされん