2003/02/08 (土) 12:56:30        [mirai]
「さあお待たせしました、いよいよお待ちかねの本日のメインイベント、かの名画『七年
目の浮気』において演じられましたるあの名シーン、摩天楼そびえる大紐育、地下鉄の排
気口よりの風のいたずらのくだりを再現いたします!」

 ふっきれたのか、千鶴さんの司会も名調子といっていい感じになってきた。

 と、客席後ろの扉から黒衣に身をつつんだ人影があらわれる。
 その手には扇風機。延長コードをずるずるのばしながら歩いてきて、舞台の張り出し部
分のわきにしゃがみこんだ。
 そのきゃしゃな体つきにはたしかに覚えがある。
 楓ちゃん!? 楓ちゃんなのか?
 紗におおわれた顔。その奥から光る二つの瞳が悲しげな色をたたえて俺をつらぬき通す。
 ――言わないでください、耕一さん。
 黒子の衣裳に身を包んでいるせいか、いつにもましてはかなげな楓ちゃん。
 まるでそこに存在していないかのような――言ってはなんだが、黒子にぴったり。
 慣れた手つきで扇風機を上に向け、最強度にスイッチオン。ぶわ~っと風が巻き起こり、
舞台上でスタンバっていた梓に吹きつける。

 ふわり、とまくれあがるスカート。梓の手が裾を直そうと押さえるが、どうにか前だけ
隠れているだけで後ろから横からあおられまくっている。

「いや~~~ん、まいっちんぐ~」

 いや……本物のマリリン・モンローはまいっちんぐとか言わないと思うぞ……。

 なおもめくられつづけるスカート。まだまだ続いている。
 スカートをめくりながらも、俺の方をじっと見つめる楓ちゃん。
 頭巾の紗幕の向こうから射るような、祈るような、懇願するような視線が俺に注がれて
いる。

 ――耕一さん。こういうときには、何かするべきことがあるのではないですか……?

 うっ。俺の負けだ。
 おとなしくおひねりを投げる。ささっと拾って懐にしまう、楓。

 そんな楓の行動にも気付かず、なおも演じつづける梓。
 ほとんど鬼である。マリリソの鬼。
 その鬼がいま、吼える。
 慟哭にも似た絶叫が、隆山ブロードウェイにとどろき渡った。

「おーーーー!! モーレツーーーーー!!」

 小川ローザかよ……。