兵士「もう、いいよね」
ﾌｾｲﾝ「ん？ なにがや？」
兵士「わたし、がんばったよね」
ﾌｾｲﾝ「なに、言うてんるんや？ﾌﾞｯｼｭ殺るまでまだあるで手、抜いたらあかんで」
ﾌｾｲﾝ「あんたやったら、出来る。もっと頑張れる。優勝までいける」
兵士「…もうゴール、していいよね」
兵士「後、三歩、そこまで辿り着いたら、もうゴールしていいよね」
ﾌｾｲﾝ「そか、もう疲れたか」
ﾌｾｲﾝ「よし、終わったらしたら、宮殿に帰って酒池肉林でもして、遊ぼか」
兵士「ううん…わたしのゴールずっと目指してきたゴール」
ﾌｾｲﾝ「…は？わからへん。兵士がなんのこと言うてるか、うち、わからへん」
兵士「わたし、がんばったから、もういいよね、休んでも…いいよね」
兵士「には…は…」
ﾌｾｲﾝ「え…あんた…まさか…負けたんか？ほんまは…負けたんか？」
兵士「……」
ﾌｾｲﾝ「嘘や…嘘や、言うてや…これからあんた…元気になって行くんやろ？」
ﾌｾｲﾝ「悪い夢は終わったはずやろ…？せやろ…？な、兵士…嘘や言うてや、兵士」
兵士「ごめんね、ﾌｾｲﾝさん…でもわたしは、ぜんぶやり終えることができたから…」
兵士「だから、ゴールするね…」
ﾌｾｲﾝ「あかん…まだ…頑張るんや、兵士は、これから、まだまだ頑張るんや…」
ﾌｾｲﾝ「ゴールは、まだまだ先や…ずっと先にあって」
ﾌｾｲﾝ「こんなところにはあらへん…あらへんはずや…」
兵士「ゴール…するね」
ﾌｾｲﾝ「あかん…兵士きたらあかん…ゴールしたらあかん…始まったばかりやんか…」
ﾌｾｲﾝ「やっとスタートきれたんやんないか…」
ﾌｾｲﾝ「ずっときれへんかったスタートやっ…これから取り戻してゆくんや…」
ﾌｾｲﾝ「十五年前、始まっていたはずの幸せな暮らし…」
ﾌｾｲﾝ「これから、兵士は取り戻してゆくんや…」
ﾌｾｲﾝ「殺って、守って、取り戻してゆくんや…せやのに…せやのに」
ﾌｾｲﾝ「なんでもうゴールなんや…まだまだある…まだこれからやんか…」
ﾌｾｲﾝ「なにもかも、始まったばかりやんか…兵士の幸せは始まったばかりやんか…」
兵士「ううん…ぜんぶ、した、なにもかも、やりとげた」
兵士「もうじゅうぶんなぐらい…この聖戦に一生ぶん楽しさがつまってた」
兵士「すごく楽しかった」
ﾌｾｲﾝ「あかん、ちがう…まだまだや…これからや…兵士、なんもしてへん」
ﾌｾｲﾝ「聖戦始めて、なにひとつしてへん…」
ﾌｾｲﾝ「うち、たくさんしたいことあるんや…大好きな兵士と」
ﾌｾｲﾝ「たくさんしたいことあるんや…全部これからなんや…」
兵士「ﾌｾｲﾝさんと、たくさん思い出つくった」
兵士「いっしょに鞭打ちしたり、絞首刑繰り返したりした」
ﾌｾｲﾝ「そんなん…これからも、いっぱいしたる」
兵士「コーランもいっしょに読んだ」
兵士「この大量破壊兵器も、ロシアから売ってもらった、宝物できた」
ﾌｾｲﾝ「まだ明日もあるし、明後日もある…」
兵士「もう一度だけがんばろうと決めたこの聖戦…ﾗﾃﾞｨﾝさんと出会った」
兵士「あの日からはじまった、聖戦…いろいろなことがあったけど…」
兵士「わたし…がんばって、よかった、つらかったり、苦しかったりしたけど…」
兵士「でも…がんばって、よかった、ゴールは…幸せといっしょだったから」
兵士「わたしのゴールは幸せといっしょだったから」
兵士「ひとりきりじゃなかったから…」
ﾌｾｲﾝ「そうや。兵士はもうひとりきりやない、ずっと、うちと一緒や」
ﾌｾｲﾝ「せやから…兵士…」
兵士「だから…だからね…もうゴールするね…」
ﾌｾｲﾝ「あかん…これからやっ…これからや言うてるやろっ…」
（とて…）
ﾌｾｲﾝ「兵士…きたらあかんっ！これからや言うてるやろっ！」
（…とて…）
（……とて。）
兵士「ゴールっ」

あのうみ（ペルシャ湾）ーー、どこまでもーーー