2003/03/24 (月) 23:43:54 ◆ ▼ ◇ [mirai]なんで、こんな事になっちゃったんだろう‥‥‥
さくらは、痺れた頭の隅っこでそんな事を考えた。だが、その思考は背筋を駆
け上がってくるピンク色をした電流にかき消されてしまう。
「ふ‥‥ふぅン!」
血が滲むくらい唇を噛みしめ、声を殺した。
思わず仰け反った後頭部が、背にした木製のドアをこつんと叩く。
さくらは、風呂上がりの様に上気した顔で、泣いた後の様に潤んだ瞳を少し開
いた。
目の前に、ツヤツヤと光る黒髪があった。長いそれを丁寧に編み上げた太めの
三つ編みが、前後する動きに僅かに揺れている。
こんな角度で見ることは希だが、知っているそれは知世の頭頂だった。
さくらは、再び瞳に瞼を被せた。
こんなところで、こんな事をしていていいのだろうか?という思いが掠める。
「こんなところ」――そう、さくらが居るところは、女子トイレの個室だった。
友枝小学校の校舎中程で、教室に一番近い。ついさっきも何人かの甲高い女のコ
の声と、足音がしたばかりだ。
その足音や嬌声が、「こんな事」の罪悪感をより掻き立てる。
目の前の頭頂は、知世のそれだった。
知世は、陶製の様式便座のフタを下ろし、そこに腰を下ろしている。
その知世の前に、さくらはドアを背にして立っていた。