2003/04/04 (金) 01:04:26 ◆ ▼ ◇ [mirai]「あ、あのね、あんた....あんたって、その」
「そうだ。名前はブギーポップ。君はもうご存知のようだね」
「.....本物なの?」
「さあね、この世に本当の本物なんてものが存在するのかな?」
「い、いやそういうことじゃなくて、つまりさ、あの、あんたって本当に、その....」
「人を殺すのか、って?ああ、そうだよ」
「そ、そんな軽く言わなくても...」
「君は、噂などでぼくのことを何だと聞いてるんだい?」
「えー、えーと.....死神とか」
「だったらそれは人を殺す存在、ということじゃないのかな。軽いも重いもあるまい」
「あんたって殺しやなの?」 「そうとも呼べるかもしれないね」
「依頼者とかいるの?」 「会ったことも聞いたこともないね」
「じゃあ殺すと、あんた自身何か得をするの?」 「いいや全然」
「じゃあ無料奉仕なの?」 「報酬みたいなものを貰ったことはないね」
「なんで殺すのよ?」
「ひとつには、それが僕の仕事だからだ。
そしてもう一つは、殺す相手が世界の敵だったりするからだな」
「どうやって殺す相手を選ぶの?」
「僕に選択肢はほとんどないね。
自動的に殺される相手が何時の間にか僕の前にやって来る事が多いね」
「殺してほしいって?あんたの相手になるのって順番待ちなの?」
「殺されたいなんて本気で思ってる人間などいないよ」
「そうかしら?」 「そうとも」
「.....そうかしら?生きてるのが嫌になっちゃって、
殺されたっていいと本気で考えちゃう人だっていると思うけど?」
「いないね」 「いるわよ!」
「それは単に、それ以上生きてると今迄生きてきた意味の方が死んでしまう、
という選択肢があるだけだ。そこにはむしろ、逆に"存在を長引かせる"
という生に意志があるわけで、生き続けるのが嫌になったわけじゃない」
「.....?どういう事よ?」
「殺されたいなんて言い出す資格を得るには、
少なくとも本気で生きてからでなきゃ、ということさ」
「.....な、何がいいたいのよ?」
「君には、その資格がるのかな?」
「だ、だって....だって、あたしはひどいヤツで。本当にとんでもないヤツで」
「悪いと殺されてもいいのかい」 「ち、違うの?」
「だったら世の中の殆どの人は死ななきゃならないんじゃないかな、君の理屈でいうと。
まさか君とて、世界が善なるものだけでできている、なんてことは思ってないだろう?」
「でも悪い奴がいなくなったら、そうしたら、世の中も少しは良くなるんじゃないの?」
「良い者だけが生きている世界、ということかい?」
「...そ、そうよ、あたしなんかじゃなくて日奈ちゃんとかがずっと平和に生きているような」
「ヒナちゃん?それは誰だい」
「あ、あたしよりもずっとずっといい娘だったのよ、
それなのに、それなのにどうしてあたしの方が.......」
「ヒナちゃん、という人が君の歪曲王だった、ということか」
「.....ど、同類なの?あんたたちは?」 「..........」
「君の歪曲王は、君に優しかったかい? それで彼女は君に何と言った?」
「...苦しみの全てを、黄金に変えなきゃならないって...」
「それでも優しかったかい?」
「そうよ! よく判らなかったし、凄く難しい事のようにも思ったけど、
でもやらなきゃならないんだな、って思ったわ!
あそこで日奈ちゃんと暮らせるなら、どんな事でもしようって思ったわ!」
「今でもそれができると思うかい」
「わからないわよ! もうあたしは、あそこにはいないんだもの!」
「君の歪曲王は、君の分身だ。
その人が優しかったのなら、それは君の優しさなんだ。
歪曲王には僕同様に....そう、さっき君が言ったとおりに、恐らく主体がない。
君の中の歪みが形となって出てきただけだ。と言う事は、
君はこれまで自分の中の優しさを歪ませつづけていたということになる。
それは決して楽しい事ではなかった筈だ。
歪んでいる事は君自身をいつも苦しめつづけてきたはずだ。
だがその苦しみの数だけ、実は君は優しい人間だったという事になる。
ヒナちゃんはそれを君に教えるために現れたのさ。君は彼女が好きかい?」
「大好きかい?」
「君はもう達成してるじゃないか」
「君のその気持ちが黄金でないとするなら、
この世の中に輝けるものなんか何もないんじゃないかな」 ー道元咲子&ブギーポップ