俺はあまり勉強もできず、ようやく入った三流大学でも完璧に落ち こぼれてしまった。もう為す術もなく、自殺しようと連絡を絶って あてもなく彷徨い歩いていると、どういう訳か親父が俺の事を探し 出して家に連れ戻した。 お袋は家の玄関で俺を一目見るなり号泣していたが、 親父は何も言わずに俺を連れて居間に入った。 居間で親父が開口一番「何で自殺なんか考えたのか」と問い詰めて きた。俺が何も言えずうつむいていると、親父は突然涙をこぼし ながら「大学の事で悩んでいたのなら、そんな大学は辞めても いい。大学を卒業しなくても人生なんてどうにでもなる」と 言った。 普段「勉強しろ」しか言わない親父の意外な言葉に、私が呆気に とられていると、親父は「いいか、どんな理由があっても親より 先に死んだら親孝行になんかならん。元気で生きてくれるのが 一番の親孝行なんだ」と言葉を詰まらせながら号泣した。 突然の親父の言葉と涙に、俺も堪えて いたものが切れて号泣してしまった、 後にも先にも、親父の涙を見たのはこの一回きりだ。