「無理して何か言おうとしなくていいよ。」 「・・・・・。」 「ごめんね、気を遣わせちゃって。」 「そんなこと無いですよ。」 「いつも俺のこと気にしてくれて、嬉しかった。ありがとう。」 「お礼なんかいいですって・・・。」 「元木君も早く調子、戻してね。・・・・・俺が言うのは変だけどさ。」 「・・・・・頑張ります。」 いつもと変わらない笑顔が痛かった。 自分に気を遣いながらも悔しさを押し殺している空気が手にとるように分かっていた。 「それじゃ、お疲れ様。」 そう言ってドアに向かおうとした江藤の右手を、元木は思わず掴んだ。 江藤がビックリした顔をして振り返るが、元木はその手を離そうとはしなかった。 何か考えがあったわけではなかった。 ただ何も言えないまま行って欲しくなかった。 何かを言いたかった。