2001/03/14 (水) 18:24:21        [mirai]
プツンと切れた緊張の糸

《記者席》
 あの目、どこかで見たことがある。大きな背中を丸めた森喜朗首相の
困ったような目。ふと、私の父の目と似ていると気づいたのは、退陣論
で身動きが取れなくなった最近のことだ。 

 父は戦前に生まれ、高度経済成長の時代に働いた。スポーツ談議が好
き。中国を「支那」という蔑称(べっしょう)で呼んでしまうこともあ
れば、郷愁を漂わせて教育を語ることもある。そして、私と議論がかみ
合わない時、困ったような表情を浮かべる。 

 2カ月前、首相番になった。首相と番記者の関係は冷え切っていた。
質問に「……」と無視することもしばしば。毎日、不毛な「首相ことば
」が紙面を埋める。言いたいことは山ほどあっても、本音を語れば失言
になるからだろう。 

 それでも首相は、周りが求める筋書き通りに演じようとはしていた。
パソコンの初心者なのに、情報技術(IT)のポスターでにっこり笑っ
たり。その姿に多くの人が違和感を感じてしまうだけだとしても。 

 そんな首相から困ったような目が消えた。「辞意固める」が報じられ
た先週半ばころからだ。私たちとのやりとりは以前にもまして投げやり
になった。首相の中で緊張の糸がプツンと切れた。(武井宏之)