2003/06/15 (日) 16:32:18 ◆ ▼ ◇ [mirai]新宿で、中学生らしき男の子達の集団とすれちがった。
4人組だったそのグループからは
ときどき大きな笑い声や話し声が聞こえ、
遠めには彼らは、
じゃれあいながら楽しげに歩いている、
ように見えた。
でも近づいてくるにつれ
彼らのしていることがはっきりと目に入って、
わたしは思わず立ち止まりそうになった。
ひとりの男の子のバッグに、
3人の男の子達は笑いながら、
コカコーラをトポトポと、
注いでいるのだった。
学校帰りなのだろう、
彼らは全員、半袖の白いシャツにネクタイをしていて、
学生カバンのほかに
ジャージかなにかを入れてあるらしい、
サブバックを持っていた。
布製の、そのバッグの中に、
コーラは音をたてて、流れ込んでいたのだった。
「やめろよ、おい、マジで」
バッグの持ち主らしい男の子は、
そう大きな声を出しながら
片腕でバッグを抱え、必死でコーラを避けようとしていた。
彼の白いシャツは、
コーラのために肩から下が茶色く染まり、
腕を伝って手のひらの方まで流れたコーラの跡が、
ぬらぬらと光っている。
そして、そうまでされてもその彼は、
必死で笑顔を作り、笑っているのだった。
「おい、やめろって、炭酸がシューシューいってっから!」
彼の口元はゆがみ、
何とか声だけは楽しげに響いているものの、
目線は泳ぎ、
嫌がっているのは一目瞭然だった。
それでも彼は、
口元だけで必死に笑い、
この、とても笑えない友達の仕打ちを、
なんとか冗談にしようとしているのだった。
他の3人の男の子達は、
楽しげに歓声をあげ、笑い、
サブバッグの中に容赦なくコーラを注いでいく。
それは明らかに、
残酷な、小バカにした笑いだった。
「まじでやめろって!・・・あーあ、結局全部入ってんじゃん!」
べとべとになったサブバッグを指差して笑う3人に混じって、
男の子はまるで他人を笑うように、
一緒になって自分のバッグを笑った。
その、目が少しも笑っていない大げさな笑顔は、
なんだかとても痛々しくて
わたしは顔をそむけた。
怒ってしまえばいいのに。
ふざけるな、と怒鳴ってしまえばいいのに。
そんなふうにして笑ってしまうから、
同じようなことがまたきっと、
彼には繰り返されるのだ。
でもその彼の気持ちは、
わたしにもよくわかった。
学生時代には、
こういうことがしばしば起こる。
学校、とかクラス、とかいう枠がはっきりとしている学生時代は、
友達関係に亀裂が入ると
とたんに毎日が、
過ごしにくい、窮屈でみじめなものになったりする。
それが怖くて、
自分を曲げた経験が、わたしにも何度かあった。
友達関係、という名前の見えない檻が、そこにはあるのだ。
あの彼は、
べとべとになったバッグのことを、
母親に聞かれたら、なんと答えるのだろう。
そのことを考えると、胸が痛い。
そうまでして、守らなくてはいけない関係なんだろうか。
それでもやっぱり、一人よりはまし、なんだろうか。
楽しげにはしゃぐ4人の声を聞きながら、
なんだか切なくなってしまったわたしなのだった。