2003/06/25 (水) 03:26:58 ◆ ▼ ◇ [mirai] 「この害虫どうするよ?」
みんな「またか…」と思ったはずだ。
彼のこの言葉は数日に一度、いや時には一日に数度、彼の全くの気まぐれによって発せられて僕達を恐怖させていた。
そんな唐突な、しかし絶対の力に、
僕達はただただ彼の機嫌を伺って、怒らせないように、怒りが一時も早く静まるように祈るしかなかったんだ。
だけど、この日は違った。僕には祈ることも許されなかった。
その時の僕には“祈り”なんて考える暇はなかったし、
考えたとしても、駅前で唾を飛ばしながら叫んでいる政治家の言葉と同じようにとても空疎な音韻の羅列でしかなかったろう。
僕はただ事態を飲み込めずに、いや違う、理解することを拒んでいたんだ。
だからただただ一つを見つめることで時の流れを止めようとしていたんだ。
だけど時は止まらなかった。時間は僕の手から離れていった。僕はまさしく、時空から袖にされた。
「害虫には永久弾きがお似合いだね。嗤い」
直後のことはよく覚えていない。
でも何か物理的な衝撃があったこと、僕のいた世界に僕は二度と戻ることはないと感じたこと、それは僕の記憶にあった。
みんな「またか…」と思ったはずだ。僕も「またか…」と思うはずだった。
だけどこの日は違った。僕には考える暇さえなかったんだ……。