泣いているのかと思った。 でも、ただ顔を伏せているだけだった。 …その姿を見て知る。 この女も、いつからか不安の中にいたのだ。 空が告げた悲しみの予感に、彼女も気づいていたのだろうか。 あるいは、あのふたりよりも先に気づいていたのかもしれない。 いつだって、僕といるときは、寂しい顔をしていたからだ。 「な…」 「もう、うち怯えたない…」 「もう、こんな不安な気持ちのまんま、生きてたない…」 「あの子にプレゼントあげて、喜ぶ顔見てたい」 「あの子が苦しんでたら、そばにいて、励ましてやりたい…」 「せやから決めた」 「あの子、うちの子にする」 「それで、もう安心して生きる」 「あの子と生きるんや、うち…」 「橘の家に行ったる」 「乗り込んでいって、談判してきたる…」 「あの子を、もう誰にも奪われへん子にするまで…何日でも居座ったる…」 「な…」 「それで、ええやろ…」 「それが、うちらしいやんな」 「………」 再び目を閉じる。 もう、女の顔は不安な表情ではなかった。 ただ、休息をとるためだけの寝顔だった。