2003/07/26 (土) 02:50:47        [mirai]
俺は彼女の顔の隣に立つ。
そして、つんつんと頬をつついた。
「………」
目が薄く開く。
その前で俺は翼を広げて、歩いた。
てこてこ…
「………」
彼女の目はまた、閉じられていた。
諦めたらダメだ。
今、笑わせないと意味がないのだから…。
つんつん。
もう一度、頬をつつく。
彼女の目が薄く開く。
それを見て、俺はベッドから飛び降りる。
そして、登ってきて、また飛び降りる。
その行為を繰り返す。
「………」
彼女の目は閉じていた。
俺は落胆する。
もう、ダメなのだろうか…。
頭の痛みが急激に増した。
しばらく、動けないでいた。
………。
…なにを、していたのだろうか…
一瞬、わけがわからなくなる。
目の前には彼女の顔。
みすず…
そう、みすずを笑わせなければ…
ずっと、彼女と居続けるために。
慌てて台から飛び降り、地面を闇雲に歩き回る。
届かないのだろうか…。
もう俺の頑張りなど、無意味なのだろうか…。
てこてこ…
ぽてっ!
つまずいて、転けた。
もどかしいばかりの体。
でも…それでも、やらなければ。
起きあがろうと顔をあげる。その前にそれがあった。
それは、こんなところにあったのだ。
人形。
俺の人形。
たくさんいる恐竜の中にはさまれて、置かれていた。
あの日のように…できるだろうか。
今の俺に。
俺は人形を口にくわえる。
そして歩き回った。精一杯に。
必死で人形を歩かせた。
最後に叶わなかった夢だ。
この手で…この人形で笑わせる。
笑ってほしい。
彼女がそれを薄目で見ていた。
「………」
その目に映っているだろうか。この光景が。
俺は人形を歩かせ続けた。
あの日は、笑わせることができなかったけど…
でも、今度こそは…
今度こそは笑わせるから。
俺は人形を歩かせ続けた。
とことこ…
「にはは…」
彼女が笑った。
できた。
やっと叶った。
それから俺はずっと、彼女の前で、歩き続けた。
慣れてくると、人形にいろんなことをさせて彼女を笑わせ続けた。
その中で俺は…彼女との暮らしをひとつずつ思い出し…
そして、忘れていった。
消えてしまう。
俺が消えてしまう。
人であった時の記憶を忘れて…
みすずと一緒に過ごした日々を忘れて…
みすずを愛していた感情を忘れて…
俺が消えてしまう。
でも…
それでも、みすずのそばにいたい。
その思いだけは、ずっと忘れずにいるから…
だから、この遠い日の記憶が失われても、ずっとそばに居続けるだろう。
今日までがそうだったように。
それだけで十分だった。
ただ笑う彼女のそばにいられれば…。
そのことを俺は、もう知っているのだから。
迷わず、知っているのだから。
彼女と共に生きること。
それが俺の幸せだということを。
だから、ずっとそばにいる。
俺の記憶が…
遠いきおくが失われてゆく…
ただ、さいごに一度だけ…
このつたない体で、みすずを…
俺はぼやける意識の中で…腕をのばした。