2003/11/21 (金) 00:05:38 ◆ ▼ ◇ [mirai] 投稿者:さくら 投稿日:2001/05/13(日)04時38分58秒 ■ ★
小学一年生の時、初めて私は俗に言う「アンダーグラウンド」の
合評会に出席した。あやしいわーるでは酒鬼薔薇所聖斗の本名が書
き込まれ、掲示板荒しが盛況だった時代である。
その日は雨で、暗い部屋に十人ぐらいの男女(女は私だけだった)
が円になって座っていた。新参の私は隅で小さくなっていた。
アニメのキャラクターのプリントがはいったよれよれティーシャ
ツを着た蒼白な男がそばにいた。あとでわかったのだが、彼がなむ
る氏だったらしい。
そのなむる氏を獲って喰うかの如く、辛辣なアニメ批評をあびせ
ている人がいた。その人は他に人とは違い惨めな服装をし、右手に
は一体のドールをとても大切そうに握っていた。そして自分の発言
が終わると口をへの字にまげた。
岩射氏と初めて会ったのこの日で、辛辣な言葉を吐き、口をへの
字にまげた男が彼だったのだ。
終わって一息ついていると、人なつっこそうな笑顔を浮かべた人
がやさしく声をかけてくれた。
「ども。俺はうんこ漏らした。笑い」
これが切っ掛けで私は岩射さんの家もたびたび遊びにいくように
なった。
カルト駅をおりて何もない一本道をしばらく歩くと彼が妹さんと
二人で住んでいる住宅街があった。当時、妹さんは御病気で療養所
におられたのである。彼はパソコンに向かって何やら面倒臭そうに
キーを打ち込んでいた。
あやしいわーるどIIの管理人になっていない頃の彼だから生活
のため「何でも引き受ける」ことにしていたらしい。おびただしい
掲示板荒しなどもその仕事のひとつだったと思う。
ドールにたえず手をふれ、口をへの字にまげ、あやしげなスクリ
プトを走らせ、ひとつ荒しおわると、最後にギコハハハとポストし
そして次の掲示板にとりかかる。私は横で、岩射さんのこの世のす
べてが面白くなさそうな顔を飽きずに眺めていた。
その翌年、私はBLACKOUTに留学してしまったため、二年近く、岩
射さんとは御無沙汰した。
帰国して久しぶりにおたずねすると、御病気だった妹さんも退院
され、家も新築され庭には池までもあった。岩射さんはあやしいわ
ーるどIIの管理人になっていたのである。
「ずいぶん、われ厨を飼ってますね」
と彼の掲示板を見ながら言うと、
「世の中が面白くねぇからわれ厨を飼うんだ」
と岩射さんは答えた。
「面白くない」「つまらん」というのは当時の岩射さんの口癖で、
一緒に歩いていても時々、右手に持ったドールを見ては、
「俺と一緒に死んでくれるか・・・」
とひとりごとの様につぶやき、もう人生は長くないような表情をす
るのだった。びっくりして妹さんにうかがうと、「いつものことで
すよ」と少しばつの悪そうな笑顔を浮かべられた。
いつも不機嫌で世の中すべてがつまらなそうな顔をしていたのは
、まだ一部のあやしい古参が彼の才能を本当に認めていないせいか
もしれない。その為にも彼にはもうちょっとだけ寛大になってくれ
ることを私は心の底から願った。