2003/12/30 (火) 15:39:00        [mirai]
私の名はメガネ。かつては友引高校に通う平凡な一高校生であり、退屈な日常と戦
い続ける下駄履きの生活者であった。だがあの夜ハリアーのコックピットから目撃
したあの衝撃的な光景が私の運命を大きく変えてしまった。ハリアーであたるの家
に強行着陸したその翌日から、世界はまるで開き直ったかのごとくその装いを変え
てしまったのだ。いつもと同じ街。いつもと同じ角店。いつもと同じ公園。だが、
何かが違う。路上からは行き来する車の影が消え、建売住宅の庭先にピアノの音も
途絶え、牛丼屋のカウンターであわただしく食事をする人の姿もない。この街に、
いやこの世界に、我々だけを残し、あの懐かしい人々は突然その姿を消してしまっ
たのだ。数日を経ずして、荒廃という名の時が駆け抜けていった。かくも静かな、
かくもあっけない終末を一体誰が予想しえたであろう。人類が過去数千年にわたり、
営々として築いてきた文明とともに、西暦は終わった。しかし、残された我々に
とって終末は新たなる始まりに過ぎない。世界が終わりを告げたその日から、我々
の生き延びるための戦いの日々が始まったのである。奇妙なことに、あたるの家近
くのコンビニエンスストアーは、押し寄せる荒廃をものともせずにその雄姿をとど
め、食料品日用雑貨等の豊富なストックを誇っていた。そしてさらに奇妙なことに、
あたるの家には電気も、ガスも水道も依然として供給されつづけ、驚くべきことに、
新聞すら配達されてくるのである。当然我々は、人類の存続という大義名分のもと
にあたるの家をその生活の拠点と定めた。しかしなぜかさくら先生は、早々と牛丼
屋はらたまをオープンして自活を宣言。続いて竜之介親子。学校跡に浜茶屋をオー
プン。そして面堂は、日がな一日戦車を乗り回し、恐らく欲求不満の解消であろう、
時折発砲を繰り返している。何が不満なのか知らんが、実にかわいくない。あの運
命の夜からどれほどの歳月が流れたのか。しかし今、我々が築きつつあるこの世界
に時計もカレンダーも無用だ。我々は衣食住を保証されたサバイバルを生き抜き、
かつていかなる先達達も実現し得なかった地上の楽園を、あの永遠のシャングリラ
を実現するだろう。ああ選ばれし者の恍惚と不安ともに我にあり。人類の未来がひ
とえに我々の双肩にかかっていることを認識する時、目眩にも似た感動を禁じえな
い。      メガネ著 友引前史第一巻 終末を越えて 序説第三章より抜粋