2004/01/19 (月) 20:19:23        [mirai]
 だが、この作品に嫌悪感を感じざるをえない理由は、その悲劇が、乗り越えられるべきものでも、変えるべき
現状でも、痛みとともに立ち向かわなければならないものでもなく、単なる舞台装置でしかないところにある。
物語に描かれる世界は、諦念とけだるい現状追認の中で、ゆっくりと腐っていく。本来その異常性故に意味を持
つはずの設定も世界も、否定も肯定(正当化)もされずに受け入れられ、登場人物の誰も歪みや異常性を認識し
ようとしないのでは、グロテスクな世界が際限なく広がるだけだ。この世界では、何も変わらない。誰も逆らわ
ない。その状況の中にはまりこみ、諦め以前に抵抗すらしようとはしない。一応それが未遂に終わった話もある
ものの、それは大きな流れに押し流された小石の一つ、と言う描かれ方でしかない。そして、読者の前で展開
される絶望的で閉じた世界は、どこまで行っても変わらない。一応指摘しておくと、課員達のゆるゆるの自己
嫌悪等というものは、抵抗因子でもないし、異常性をえぐり出すものでもない。むしろ、歪んだ世界の中で何も
しないことの言い訳、自己正当化でしかない。