> 2004/02/01 (日) 14:16:49 ◆ ▼ ◇ [mirai]> ここらで昼のCtrl+vしてみてくれ
マリア様の心のごとく、包み込むような広い青空。
雨なんて降るときは降るものだけれど、こうもからりと晴れ上がると、「日頃の行いのたま
もの」とか「マリア様がお味方くださったから」とか、つい言ってみたくなるものである。特
に、カトリックの女子校では。
というわけで。あんなことこんなこと、いろいろありつつも、リリアン女学園高等部は晴れ
て体育祭の日を迎えた。
「体操着よーし。お弁当よーし。じゃ、行ってきまーす」
玄関で指さし確認をして、さあ出かけるぞというまさにその時。さいごの、「行ってきまー
す」を聞きつけて。
「ああっ、祐巳ちゃん」
呼び止める者ありけり。
「何?招待券だったら、昨日のうちにお母さんに渡しておいたけど」
当たりを付けて答えてみたものの、やっぱり外れだった。
「格好、これでいいかな」
クリーム色のポロシャツを着て、不安げに上がりかまちから娘を見下ろす父。手には、迷っ
ている最中だったのであろう、数枚の服が握られている。
「いいんじゃないの?どうでも」
「どうでも、って。ちゃんと見て、これがいいって選んでくれよ」
着慣れた物からまだ袖を通していないおニューまで。いったい何着が最終候補に残っている
のやら。あ、よく見ると、中には祐麟のシャツも混じっている。
「あのさ、今日は娘の体育祭なんだから。お父さんがファッションショーする必要ないんじゃ
ないの?」
今日は日曜日。
お父さんは運良く仕事も入ってなかったので、体育祭を観に来ることになったのだった。で
もって、ちょっと興奮気味。
「でも、他のお父さんたちに比べて見劣りしたら……。お父さんが場違いな格好していって、
祐巳ちゃんが恥をかくなんてことがあっちゃいけないだろう?何てったって、うちの娘はロ
サ・キネンシンスの妹なんだし」
「……キネンシスだよ」
お父さんは、ヒヤシンスと混同しているようだ。どっちもきれいな花だけれど、思いっきり
種類が違います。
「祐巳ちゃん、頼むよ」
考えすぎて、訳がわからなくなってしまったらしい。何にしても娘にピシッと選んでもらえ
ればそれで満足するだろうから、祐巳はちょこっと迷ってから決定した。
「じゃ、右手に持っているポロシャツ。お父さん、グリーンが似合うし。緑チームの私のラッ
キーカラーだよ、たぶん」
別に今着ているクリーム色だっていいんだけれど、それだとあまり「決めてもらった感」が
ないだろう。ちゃんとした理由があれば、お父さんも気持ちよく着られるはずだし。
「うん、わかった。……でも、スーツじゃなくていいのかな」
左腕に引っかけているのは、チャコールグレーの上下スーツ。これが授業参観なら、ベスト
チョイスかもしれないけれど。
「親父。体育祭って運動会だよ?応援する父兄だってさ、ラフな格好が一番じゃないの?」
祐旗が大あくびしながらやって来て、お父さんの手からスーツを取り上げた。ついでに自分
の私物を見つけて、それも引き抜く。
「お父さんはね、祥子さまのお父さまに密かなライバル心を燃やしているのよねー」
玄関で騒がしくしているので、お母さんまで出てきて会話に参加した。
「でもね、祥子さまのご家族はいらっしゃらないそうよ」
以前祐巳が小笠原家の別荘にお呼ばれした際、パニックのあまりコシヒカリ騒動を起こした
お母さんが、今回は妙に落ち着いていたのは、事前にそのことを知っていたせいだった。
「つい言い忘れちゃった。ごめんなさいね」
悪びれもせず笑うお母さん。そこで、祐巳がすかさずフォロー。
「親戚の結婚式があるんだって」
「……日曜日だもんな」
一気にテンションが下がったようで、お父さんは背中を向けると、両手で抱えた服をクロー
ゼットに戻すべく廊下をとぼとぼと戻っていった。それに続く弟に、祐巳は声をかけた。
「祐麟は?来るの?」
「行かない」
「どして?」
「どうして、って。でかける予定があるから」
ぶっきらぽうに答えて、弟退場。
「……って言うけれど、恥ずかしいのよ本当は。ねーえ。祐麟のお弁当も作っておいたから、
お昼になったら食べなさいね」
参考:2004/02/01(日)14時16分09秒