「バレンタインデー?」 多大な期待はしていなかったけれど、志摩子さんは「何のこと?」って感じに首を小さく 傾げて微笑んだ。 「……えっとね」 痒くもない頭をぽりぽりとかいて、祐巳は言葉を詰まらせた。 予想通りというか何ていうか。志摩子さんの対応ったら、どう見ても例年の二月十四日、 誰かにチョコレートを進呈している女の子のそれとは違う。 「嫌だ、祐巳さん。私だってバレンタインデーくらい知っていてよ」 お上品にコロコロと笑う。ああ、よかった、と祐巳はほっと一息ついた。バレンタインデ ーの説明を一からしなきゃいけなかったら、どうしようかと思った。 「この行事は、そもそも昭和二十一年の二月十四日、進駐軍のバレンタイン少佐が子供たち にチョコレートを配ったという故事に由来しているのよ」 「……わりと、もっともらしく聞こえるわね」