2004/02/20 (金) 21:20:30 ◆ ▼ ◇ [mirai] 祐巳は祥子さまを見つめた。
「なぜ黙るの。あなたの心の中にある言葉を、どうして私にぶつけないの? それじゃ、
私には何もわからない」
お姉さまは今、とても怖い顔をしている。
「ごめんなさい……お姉さま」
それだけ言うのが、やっとだった。お姉さまにこんな顔をさせて、ここまで言わせる自
分が情けなかった。
何が起ころうとも、祥子さまを嫌いになるはずがない。
それなのに祐巳は。次第にぼやけていく大好きな人の輪郭線を、瞳の中に揺らめかせる
だけしかできないでいた。
「あの、祥子さま?」
ただならぬ気配を感じたのか、志摩子さんが扉の側まで駆け寄って声をかけてくれたけ
ど。二人の間に漂う緊迫した空気というのは、誰にも修復することなどできなかった。
「……志摩子、おいで」
察した白薔薇さまが、志摩子さんの肩を抱いて連れていく。
「なぜ、泣くの」
二人きりになった薔薇の館の玄関で、祥子さまが小さく言った。
「やめて頂戴、これじゃ私が一方的に後輩いじめしているみたいじゃない。泣きたいのは
こっちの方よ。妹に避けられて、その理由すら教えてもらえなくて――」
「うっく」
祐巳の喉から、奇妙な音がした。言葉を発しようとしたのに、まるで喉の肉が盛り上が
ったみたいに声帯をつぶして声が出ない。
「なぜ、話してくれないの? あなたにとって、私ってその程度の存在なの? 毛深いの
がそんなに嫌なの?」