2004/04/08 (木) 17:43:16        [mirai]
【真一郎】 
「唯子!!」 
俺はとっさに、唯子を抱きかかえて地面に転がった。 
ドカーン!ガシャア!▼ 
すぐ耳元で、すごい音がした…。 
【真一郎】 
「…てて…」 
「唯子、無事か…?」 
【唯子】 
「…ったぁ…」 
「なんなの…?」 
俺達は起き上がり、うしろを振り向く。 
ひしゃげた車が壁につっこんで、煙を上げている…。 
…ふと気付くと、車と壁の間に、
なにか変な形の固まりが、押し付けられたみたいにつぶれてる。 
その変な固まりを中心に、壁にびっしゃりと、
赤い液体が飛び散ってる。まるで、大きな赤い花柄みたいに。 
……耳につき刺さる高い音が、唯子の悲鳴だって気付くまで、
ずいぶん時間がかかった。 
唯子は、なんで叫んでるんだろ…?▼ 
俺は、ぼんやりと壁を見詰めていた。 
変な固まりは壁でつぶれたトマトみたいに、微動だにしない。 
あれがもし生き物なら、間違いなく死んでる。 
…あれがもし、人間だとしたら、
顔を壁に向けて、ちょうど背中の当たりで車に挟まれている形になる。 
唯子はその変な固まりに駆けよって、車を必死にどかそうとしている。 
…馬鹿だなぁ…。 
いくら唯子が力持ちでも、車は動かせないよ…。 
ああ、唯子、だめだよ。 
手が汚れるからその変な固まりに触るなよ…。 
車と壁の間から、唯子が変な固まりを引っ張り出そうとするたび、
それはぶらぶらと力なく揺れる。唯子の制服は真っ赤に染まってる。 
…あーあ、後で洗うの、大変だぞ…。 
小鳥に手伝ってもらわなきゃ…。 
そう言えば小鳥は、どこに行ったんだろう?▼ 
小鳥は、ほら、もうすぐ車の下の方から、『いたーい…』なんて言いながら出てくるに決まってる…。 
あはは、唯子、まわりの大人に叱られてる。 
…あのオトナ達がいなくなったら、きっと、小鳥は車の下あたりから、『いたーい…』なんて、笑いながら出てくる。 
そうに決まってる。 
そうに決まってる。 
絶対に。 
絶対に絶対に…。 
気がついたら、俺も、変な固まりに駆け寄っていた。 
鉄と、生肉の匂い。 
ねえ、小鳥。 
家に帰るから、そこから出て来てよ。 
……うちに帰って、ごはん作って、ずっと、楽しく幸せに暮らすんだからさ。 
3人でずっと仲良く。 
ねえ。 
動いてよ、ねえ、小鳥…。 
ねえ………………。