【早苗】「風子ちゃん」 その名を口にした。 ああ…よかった。 早苗さんは、まだ覚えていてくれた。 【風子】「ただいま…です」 【風子】「………」 【早苗】「風子ちゃん…」 もう一度、繰り返した。 【朋也】「早苗さん…?」 【早苗】「あ、また、わたしのパンを食べてくれますか」 風子が返事をしていないのに、慌てて、トレイの前まで走る。 【早苗】「いくつですかっ…たくさんですかっ」 【早苗】「お腹いっぱいになると…夕飯入らないですよ」 【早苗】「これぐらいにしておきましょうね…」 胸に、山ほどパンを抱えて、こちらを振り返る。 その中からひとつを掴んで、差し出す… まったく…見当違いな方向に。 腕からぼろぼろと、パンが転がり落ちた。