>  2004/06/12 (土) 00:48:10        [mirai]
> > 続き早く!!
>  ――私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。私の恋人は破砕器
> (クラッシャー)へ石を入れることを仕事にしていました。そして十月の七日
> の朝、大きな石を入れる時に、その石と一緒に、クラッシャーの中へ嵌(は
> ま)りました。
>  仲間の人たちは、助け出そうとしましたけれど、水の中へ溺(おぼ)れるよ
> うに、石の下へ私の恋人は沈んで行きました。そして、石と恋人の体とは砕け
> 合って、赤い細い石になって、ベルトの上へ落ちました。ベルトは粉砕筒(ふ
> んさいとう)へ入って行きました。そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、細(こ
> まか)く細く、はげしい音に呪(のろい)の声を叫びながら、砕かれました。
> そうして焼かれて、立派にセメントとなりました。
>  骨も、肉も、魂も、粉々になりました。私の恋人の一切はセメントになって
> しまいました。残ったものはこの仕事着のボロ許(ばか)りです。私は恋人を
> 入れる袋を縫っています。
>  私の恋人はセメントになりました。私はその次の日、この手紙を書いて此樽
> の中へ、そうと仕舞い込みました。
>  あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相(かわいそ
> う)だと思って、お返事下さい。
>  此樽の中のセメントは何に使われましたでしょうか、私はそれが知りとう御
> 座います。
>  私の恋人は幾樽のセメントになったでしょうか、そしてどんなに方々へ使わ
> れるのでしょうか。あなたは左官屋さんですか、それとも建築屋さんですか。
>  私は私の恋人が、劇場の廊下になったり、大きな邸宅の塀(へい)になった
> りするのを見るに忍びません。ですけれどそれをどうして私に止めることがで
> きましょう! あなたが、若し労働者だったら、此セメントを、そんな処に使
> わないで下さい。
>  いいえ、ようございます、どんな処にでも使って下さい。私の恋人は、どん
> な処に埋められても、その処々によってきっといい事をします。構いません
> わ、あの人は気象(きしょう)の確(しっ)かりした人ですから、きっとそれ
> 相当な働きをしますわ。
>  あの人は優(やさ)しい、いい人でしたわ。そして確かりした男らしい人で
> したわ。未(ま)だ若うございました。二十六になった許(ばか)りでした。
> あの人はどんなに私を可愛がって呉れたか知れませんでした。それだのに、私
> はあの人に経帷布(きょうかたびら)を着せる代りに、セメント袋を着せてい
> るのですわ! あの人は棺(かん)に入らないで回転窯(かいてんがま)の中
> へ入ってしまいましたわ。
>  私はどうして、あの人を送って行きましょう。あの人は西へも東へも、遠く
> にも近くにも葬(ほうむ)られているのですもの。
>  あなたが、若(も)し労働者だったら、私にお返事下さいね。その代り、私
> の恋人の着ていた仕事着の裂(きれ)を、あなたに上げます。この手紙を包ん
> であるのがそうなのですよ。この裂には石の粉と、あの人の汗とが浸(し)み
> 込んでいるのですよ。あの人が、この裂の仕事着で、どんなに固く私を抱いて
> 呉れたことでしょう。
>  お願いですからね。此セメントを使った月日と、それから委(くわ)しい所
> 書と、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、御迷惑でなかった
> ら、是非々々お知らせ下さいね。あなたも御用心なさいませ。さようなら。

なんか江戸川乱歩みたいでいいな

参考:2004/06/12(土)00時45分17秒