空はどこまでも青く晴れ渡っていた。 眼下のタイガ(針葉樹林帯)は赤や金色の紅葉が始まっていた。 1978年9月6日午後零時50分。ベレンコ(29歳)は、ソ連空軍の誇る最新鋭 戦闘機ミグ25でウラジオストクの北東190キロ、チェグエフカにある513空軍 基地を離陸した。 5分後、高度7、200メートルに到達。訓練空域には、数機の友軍機がいた。 「今ならまだ引き返せる」との思いが頭をよぎったが、地上のレーダーに感づかれな いようにゆっくりと高度を5、800メートルに下げ、次の瞬間操縦かんを思い切り 前に倒し、急降下した。 地表がぐんぐん迫る。高度30メートルの超低空飛行で2分後、日本海に出た。この 間「操縦不能」の緊急信号を40秒間出し続けた。次に無線のスイッチを切った。 「これで基地は墜落したと思って大騒ぎだ」