2017/08/06 (日) 10:00:48        [misao]
往年の名女優ジャンヌ・モローが最近亡くなったことで、その代表作として取
り上げられることも多い、1958 年のフランスの名作「死刑台のエレベーター」。
オリジナルのフランス語のタイトルは Ascenseur pour l'échafaud という。
ところが、これの米国におけるタイトルは、公開当初から Elevator to the 
Gallows であった。英国では Lift to the Scaffold として公開された。とこ
ろで、フランスでは 1981 年まで法的に死刑が存在しており、最後の処刑は 
1977 年に執行された。フランスでは (革命からの) 伝統により、1977 年の実
質死刑廃止まで、すべての処刑はギロチン (断頭) によっておこなわれていた。
欧州の多く (現在では EU の規定により、すべての加盟国で死刑は廃止) が近
代の死刑を絞首に切り替えていたことを考えれば、きわめて異質である。つま
り、上記の映画が公開されていたときのフランスの処刑法はギロチンである。
英語の gallows には、(死刑執行の場としては)「絞首台」の意味しか存在し
ない。これは gallows の本来の意味から考えても明らかである。一方の 
scaffold の第一義は「(工事用の) 足場」であり、死刑台についてはあらゆる
ものを指すことばである。また、それらの差異に米国英語・英国英語の差異は
関係していない。つまり、米国における件の映画のタイトルは明らかに誤りで
あって、英国のタイトルと日本でのそれが正しい (échafaud は英語で scaffold 
に相当する)。ある国での公開タイトルはその国における配給元に命名権があ
るのが一般的である。最近とかく日本語のタイトル変更が問題になることが多
いが、作品内容を斟酌してオリジナルのタイトルとはまったく異なるものに変
更することは許容できても、事実を誤認させてしまうものに変更すること、国
文法上誤ったことば (例「敬愛なるベートーベン」) などには、苦言を呈して
おきたい。