2018/01/23 (火) 17:24:30        [misao]
「ふたりで店をひらこうぜ」
最初に言い出したのは、永井と僕のどちらだったか。開業資金をつくるために僕たちは、
今まで信じられないほど大胆な馬券の買いかたに挑んでいた。

九七年の春、シーキングザパールで軍資金を「転がし」た。
「真珠をさがして」という名前のその牝馬が三戦連続で勝ったとき、僕たちの手元には
およそ四百万円と、でたらめな自信とがそろっていた。
次はNHKマイルカップ。

永井と、東京競馬場の正門で待ち合わせていた。
だが、永井はあらわれない。
永井も彼のバックに入った四百万円もなしでレースは始まった。
瞬間、覚悟した。もう会えまい。


馬群が第4コーナーに到ってもまだ怒りを感じていない自分に驚いた。
僕たちの旅はこんな風に終わるのだ。この時を前から知っていたような気がした。
オレンジ色の帽子がふたつ、群れの真ん中から飛び出してくる。

シーキングザパールと、ブレーブテンダー。
生年月日も生まれた国も同じ二頭だと知っていたが、走る姿まで似ているとは。
一着がどちらなのか、僕の位置からじゃよく見えない。

「どっちがどっちでもよかったんだ」突然思った。
僕が永井で、永井が僕だったかもしれない。

でも、正門を出たところに永井はいた。
「時間を間違えた」やっちまった、という表情。
「四百万は?」
「だから増えてないって」バックに永井は目をやる。
「大損したよ馬鹿!」大きな声が出た。
「でもプラマイゼロだから」
ちがうよ馬鹿、俺の気持ちが、だよ。

言いそうになったが、言ってたまるかとも思った。

なろうに投稿してくる(;´Д`)