>  2018/04/29 (日) 21:48:52        [misao]
> あすの綿密な予定を立てて床についたのに眠れない(;´Д`)むかしばなしして

あやしい童話シリーズ『石泥棒と偽地主』

或る曇天の日の夕刻。
杖を手にした大男が人気のない街道を歩いていると、みすぼらしい小男が道端に屈んで小石を拾っては投げ、拾っては投げとやっていた。
大男は、はて何をしているのかと訝しみ、しばし足を止めてその様子を眺めた。小男は石を拾うのに夢中で気づかない。
と、嬉しげな声が上がった。
「これだこれだ、よい大きさだ」
そう言うと小男はにんまりと笑い、つまんだ石を懐に仕舞い込んだ。
大男は少し脅かしてやろうと思い大声を出した。
「ほおい! ここで何をしているか!」
小男は、ひぃ、と悲鳴を漏らし、額を土にこすりつけ、ご勘弁を、ご勘弁を、と繰り返した。
「ワシはここの地主だ! おぬし、ワシの土地で何をしておった!」
無論嘘だ。大男は通りすがりである。地主ではない。
「へぇ、へぇ、出来心でごぜえやす。お許しを。盗むつもりはございませんで」
「盗むとは何をだ」
「石でごぜえやす」
小男は懐からじゃらりんと木綿の袋を取り出した。口紐を緩めると中から小石が顔をのぞかせる。同じような形の石が、4,50はあろうか。どこにでもあるつまらぬただの石だ。
「何故盗む。集めて何ぞ使うのか」
「いいえ、いいえ。なんもいたしやせん。ただただ欲しいだけでごぜえやす」
「いくつか捨てていただろう。どう選んだ」
「あっしの小指の根元に押し当てて、こう、ぐるうりと指で掴みやす。掌をぺったりと石の肌にくっつけて、親指の腹が小指の爪にぴたりと重なる大きさの石が、たまらなく良いのです。とにかく、よいのです」
「よいのか」
「へぇ、へぇ。それはもう、たまりませんで」
「ワシの土地で盗みを働いたな」
「それはどうか、どうかご勘弁を。これ、このとおり、石はお返しいたしますで」
だが大男は石になど興味はない。
「ならばその石、すべて飲んでみせろ」
「殺生な。できません、できません。ご勘弁を」
「するのだ。盗みの罰だ。飲めなんだ数だけ杖で打つぞ!」
大男に樫の杖で打たれてはたまらない。小男は泣きながら石を飲み始めた。
ひとつ、ごくり。
ふたつ、ごくり。
みっつ、ごくり。
よっつめを口に入れたとたん、小男はうーんと呻き、ばったりと地に伏した。げえげえと吐く。
「では罰だ」
大男は、杖で小男の背中をぼうん、ぼうん、と打った。
7度も打たぬうちに小男はぐしゃりとなって死んでしまった。
おしまい。

参考:2018/04/29(日)21時47分53秒