2020/08/28 (金) 00:21:23        [misao]
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 さわやかな朝の挨拶が、澄み切った青空にこだまする。
 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり
抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくり
と歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない
生徒など存在していようはずもない。
 私立リリアン学園。
 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカ
トリック系お嬢さま学園である。
 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎か
ら大学までの一貫教育を受けられる乙女の園。
 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ
温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学
園である。

 彼女――、福沢祐巳もそんな平凡なお嬢さまの一人だった。