グレーゴルは,善意を誤解した父親にリンゴを投げつけられ,その傷が原因となって死ぬが, 悲劇から解放された一家が打ちそろって郊外に出かける場面で小説は終わっている。 〈目的地の駅で娘がまっさきに立ち上がり,若い体をぐっとのばしたとき,それが彼ら2人(両親)にとっては, 自分たちの新しい夢とよい意図との確認のように思われるのだった〉。 作者自身はこの結末に不満を感じていたようであるが,小説の語りの視点が,基本的にはグレーゴルの内面におかれながら, その死後の状況まできわめて自然な現実感で語られているところに,20世紀前半における散文作品の, 受容の立場をも含めた完全性が示されているといえよう。