57‐58年の〈アジア風邪〉の世界的流行が記憶に新しい。 中国に原発したそれは地球上の全域を侵し,日本でも人口の半数が罹患したといわれるが, 幸いにも多数の人命を奪うということはなかった。しかしこのアジア風邪の伝播速度は, スペイン風邪のそれよりはるかに速かった。アジア風邪ウイルスは,1957年2月から11月までの10ヵ月で世界を一周した。 それはいうまでもなく現代人の移動の頻繁さと迅速さに起因している。 密集した集団生活,満員の交通機関,迅速な航空輸送など,現代の社会環境が 世界中の人々をほとんど同時に侵襲するインフルエンザの爆発的な性格をつくったのである。