2017/06/11 (日) 22:31:19        [misao]
死力を尽くしてぶつかり合った二代目と弁天は満身創痍である。
ついに彼らは天狗的膂力を使い果たして、荒ぶる子どものように取っ組み合いの喧嘩を始めた。
立ち上る黒煙のまわりをぐるぐると旋回しながら、鬼のような形相でたがいの髪を引っ張り合う。
弁天の髪は乱れに乱れて山姥のようであった。
ふいに二代目が彼女を抱き寄せ、その髪に接吻するような仕草をした。
弁天がギョッとして身をよじったとたん、二代目の息を吹きこまれた彼女の髪がワッと燃え上がり、
まるで干し草に火を放ったかのように、天の一角を明るくした。
弁天は声にならぬ悲鳴を上げて二代目を突き放し、流れ星のように炎の尾を引きながら、なすすべもなく堕ちていく。
二代目は息を切らしながら、彼女の堕ちた先を睨んでいた。
しかし、その後を追おうとはしなかった。