死力を尽くしてぶつかり合った二代目と弁天は満身創痍である。 ついに彼らは天狗的膂力を使い果たして、荒ぶる子どものように取っ組み合いの喧嘩を始めた。 立ち上る黒煙のまわりをぐるぐると旋回しながら、鬼のような形相でたがいの髪を引っ張り合う。 弁天の髪は乱れに乱れて山姥のようであった。 ふいに二代目が彼女を抱き寄せ、その髪に接吻するような仕草をした。 弁天がギョッとして身をよじったとたん、二代目の息を吹きこまれた彼女の髪がワッと燃え上がり、 まるで干し草に火を放ったかのように、天の一角を明るくした。 弁天は声にならぬ悲鳴を上げて二代目を突き放し、流れ星のように炎の尾を引きながら、なすすべもなく堕ちていく。 二代目は息を切らしながら、彼女の堕ちた先を睨んでいた。 しかし、その後を追おうとはしなかった。