2008/09/11 (木) 19:56:46 ◆ ▼ ◇ [qwerty]牛なべの味
接待ですきやきの老舗「牛松」でスキヤキを食べる山岡たち。別の座敷には海原雄山がいて、
そのスキヤキに激怒する。「この鈍重な味はどうだ。問題はこの割りしただ。醤油と少量の
まずい酒と水と大量の化学調味料と砂糖がぶちこんである。最低だ。しかも煮えすぎた肉を
とき卵に絡めて食べる。これではどんな良い肉を使っても肉の風味は失せてしまう。
おまけに火を通しすぎているから肉の持ち味が消し飛んでいる。スキヤキこそ牛肉を最も
まずく食べる方法であろう」
あわててシャブシャブが出される。「訂正しよう。牛肉をまずく食べる方法はスキヤキだけ
ではない。このシャブシャブもだ。肉は薄い。こんな薄い肉を沸騰する湯にくぐらせると、
湯の中に肉の旨味を捨ててしまう。肉を食べるタレだが、脂肪が抜けて淡白になった牛肉には
ゴマダレがゴマの香りが強すぎ、モミジオロシは唐辛子の辛味が強すぎる。いくら淡白に
なっても牛肉には獣肉の匂いが残っている。ポン酢は獣肉の臭みには適応しない」
あきれて店を出る雄山。「スキヤキを食うにはせめて魯山人風のスキヤキを食わせろ」
その言葉を聞く山岡。「牛松」は番頭だった竹下が乗っ取ってから味が落ちた。
その主人だった息子は細々とすきやき屋「本家・牛松」を経営していた。山岡はスキヤキと
シャブシャブに対して雄山同様疑問を持っていた。「スキヤキは甘ったるくくどい味付けで
肉の風味を殺し、シャブシャブは肉の旨味を湯の中にわざわざ捨てている」「肉の旨味を
100%引き出した料理に練り直せというわけですね」
「オレのシャブスキーを食ってみてくれないか。魯山人風のスキヤキを練り直したものだ」
海原雄山は魯山人風のスキヤキを食える店と聞き、「本家・牛松」に行く。
「火はごく弱火にして中のダシが沸騰しないようにしてください」「すでにダシが張ってあるな。
良いカツオブシを使っている。良い酒を使い、砂糖も使っていない。ネギの高さも豆腐の厚さも
ダシの深さにあわせているな。ここまでは魯山人風だ」肉を見て怒る雄山。
「この肉はシャブシャブ用に薄く切っているではないか。魯山人風ならスキヤキの厚さに切るべきだぞ」
「当店風の食べ方をお試しください。肉を一枚ずつダシの中にひろがるように入れてください。
肉の周りがほの白くなって肉全体が赤から桃色に変わる頃合で引き上げてください。そして肉は
このタレをつけてください」「タレをつけるだと。魯山人風はナベのダシを醤油で味付けする。
タレをつけはしない」「どうぞお試しください」そのタレに感心する雄山。
「ダシを沸騰させない理由は二つある。一つはダシが煮えてまずくなるのを防ぐため。
一つは薄切りの肉に柔らかく火を通してレアの状態にするためだ」
「これは肉の旨味を100%引き出す完璧な火の通し方だ。肉の食べ方を知り尽くしていな
ければ考えられない調理法だ。しかもこの肉の味を引き立てているのがこのタレだ」
「タレはこれと醤油とダシを混ぜて作りました」「これは梅酢か。いや違う。塩分が
ほんのわずかしかないし」「一升の酒に梅干を十個加え、弱火で七合くらいになるまで
煮詰めた物です」「魯山人風スキヤキは手間がかかりすぎるから自分の家で作るもの。
この料理は店で大勢の客に出す事が出来る」「シャブシャブとスキヤキの良いところを
取ったのでシャブスキーと名づけました。ところで、魯山人風スキヤキは文献でわかるとして、
この料理は自分で考えついたのか」「いいえ、私が考えだしたのではありません」
「では、士郎に言っとけ。肉はサシが少ないほうがもっと美味い、とな」
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